
血液検査をよりスピーディーかつ包括的にしたいと考えているスタートアップの米キャリアス(Karius)は、血液検査で1400種類以上の病原体を速やかに特定する技術を持ち、注目されている。他社の類似の技術と異なり、既に医療現場で実際に使われており、今後の普及に期待できそうだ。
病院の患者が新たな感染症にかかったとき(人間の免疫力が落ちているときによく起きることでもある)、何が問題なのか調べるために、医師はいまだに数十年前から使ってきた検査を頼りにする。多数の検査をこなすには時間がかかる。例えばバクテリアを特定するには、研究室の技師はまだペトリ皿に検体を入れ、どの細菌が姿を現すか待つ。これは数日、下手をすれば、数週間もかかるプロセスだ。
2020年2月下旬にソフトバンクグループ率いる投資家連合から1億6500万ドル(約175億円)を調達したと発表した「キャリアス」という名のスタートアップ企業は、異なるアプローチを採用している。血液サンプルを1度だけ採取し、遺伝子検査を利用して、バクテリアや菌類、ウイルス、寄生虫など1400種類以上の病原体を速やかに特定するのだ。医師は通常、翌日には検査結果を得られる。
血流に入り込んだ病原体のDNAを解析
「感染症の大きな問題の1つは、具体的にどの病原菌が感染を引き起こしているのかを突き止めることだ」と、キャリアスのミッキー・カーテス(Mickey Kertesz)CEO(最高経営責任者)は言う。異なる病原菌が同じ症状を引き起こすこともある。医師が細菌感染だと推測し、数日後になって、実は違うことに気づくかもしれない。次に真菌感染を疑って検査し、それもやはり違うことを知ったりする。「最終的に患者に診断が下されるまで、かなり長く退屈なプロセスが必要になる」。
また、旧来のプロセスは一般的に、内部組織の検体を採取するなど、体に影響を及ぼす侵襲型の検査が必要になるが、新しいプロセスはそれも避けることができる。病原菌が患者に感染すると、そのDNAが血流に入り込む。キャリアスが探すのは、それだ。米国で小児病院として有名なルーリー・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・シカゴで実施された研究では、第1弾の検査に新たなプロセスを利用すると、34回の侵襲型検査を避けられることが分かった。
症例によっては、旧来の検査が不可能なこともある。「神経外科医が生体検査を行えない場所に脳腫瘤(のうしゅりゅう)がある患者がいた」と話すのは、米ヒューストンのベイラー医科大学の助教授で感染症専門医のライラ・ウォクコルバーン氏。同氏はHIV患者の治療に取り組んでおり、新しい検査サービスを利用した医師の1人だ。患者の症状は、原因として2つの病気が考えられた。ウォクコルバーン氏は、この遺伝子検査を使って患者がどちらの病気を患っているのか確認し、治療を始めることができた。
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