テレビ放送の大事なイベントで最大級のブランドが流す最大規模の広告は従来、自動車や菓子類、ビールのメーカーが占めていた。今では、ご多分に漏れず、巨大ハイテク企業が主役になった。

米スーパーボウルのイメージ(写真/Shutterstock)
米スーパーボウルのイメージ(写真/Shutterstock)

 米USAトゥデー紙の年次調査「Ad Meter」は32年間にわたり、米プロフットボールNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」の中継中に流れるテレビCMの人気を測定してきた。2020年のリストは、かつてないほど例年と違って見えた。

 人気ランキングでは米グーグルが堂々3位につけ、米アマゾン・ドット・コムが7位、米マイクロソフトが9位に入った。かなり順位が低い39位の米フェイスブックでさえ、初めてスーパーボウルでスポット広告を流したが、それでも米ゼネラル・モーターズ(GM)の主力車「GMC」や独アウディ、米コカ・コーラ、米ペプシといったテレビ広告の王者を打ち負かした。

 これら“ビッグテック”は一見どこからともなく現れ(もっとも準備期間は何年もあった)、ついに伝統的なブランド――テレビ広告の常連だった自動車、菓子類、ビールなど――の独壇場だった、主要なテレビ広告主になった。

 これらのハイテク企業は創業来ほぼ一貫して、伝統的なメディアをあざ笑っていた。広告の効果を測定できない、視聴者を顧客に転換できない、リアルタイムのデータが足りない、といった具合だ。ところが今、21世紀の最も支配的なブランドが、こぞって20世紀後半の有力ブランドのように振る舞い、会社のイメージと顧客ロイヤルティーを築くためにテレビを主要なツールとして使っている。

 半歩下がって見ると、この展開は少々理不尽だ。というのもマイクロソフトを除くハイテク各社は、デジタル広告における支配的な地位とストリーミング配信されるコンテンツによって、基本的に近代テレビ業界を破壊することを生業としている企業だからだ。

 スーパーボウルやアカデミー賞、グラミー賞など、最も注目度が高いテレビ放送の機会は今、我々消費者が過度に批判的になったり、神経質になったり、各社の行動を気味悪く思ったりするのを防ぐような「感情的関係」を顧客との間で築くために、ハイテク企業が向かう先になっている。

 やろうとしても、これ以上うまくシナリオを書くことはできなかったろう。

テレビに大金を投じるハイテク企業

 ハイテク業界で19年、テレビ広告に最もお金をつぎ込んだ企業の1社はマイクロソフトで、CMに5億ドル(約550億円)を費やした。テレビ広告測定会社iSpot.tvによると、マイクロソフトはタブレット端末の「Surface」ブランドだけで広告費をほぼ前年比20%増やし、推定2億1910万ドル(約241億円)に引き上げている。

 アマゾンは19年に総額12億5000万ドル(約1375億円)以上をテレビ広告に投じ、例えば会員向けサービス「Prime」のテレビ広告費は約2億1000万ドル(約231億円)と、前年比で実に487%も増やした。アマゾンでやはり目を引いたのは、ホームセキュリティーシステム「Ring」のテレビ広告費を2倍以上に増やし、18年の3200万ドル(約35億2000万円)から19年の約7900万ドル(約87億円)に引き上げたことだ。アマゾンが最近、Ringのユーザーにデータが共有されていることを知らせないまま、フェイスブックなどにユーザーデータを提供していたと告発され、また新たなプライバシースキャンダルが勃発したことを考えると、同社としては、かき集められるだけのブランドロイヤルティーが必要になる。

 フェイスブックはビッグテックでは最も規模が小さく、それに従い、19年のテレビ広告費がわずか3億ドル(約330億円)だった。iSpotによると、その半分以上がフェイスブックのブランド磨きに費やされている。

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