
動画配信サービスの巨人「Netflix(ネットフリックス)」が2019年決算の発表時に口にしたコメントは、世界最大の動画プラットフォームである「YouTube(ユーチューブ)」に対する危険な執着心を映し出している。
2020年1月21日、米カリフォルニア州ロスガトスでは、気温が15度にも達しなかった。米ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEO(最高経営責任者)、スペンス・ニューマンCFO(最高財務責任者)、グレッグ・ピーターズCPO(最高プロダクト責任者)がそろって、四半期決算のテレビ電話会議で粋なセーターを着こんでいたことからも、肌寒さは明らかだった。彼らは発表したばかりの四半期(2019年10~12月)決算と19年通期決算、そして20年の見通しについて語っていた。
しかし、この日、冷たい空気が漂っていたのは、ネットフリックス本社の外だけではなかった。幹部らは決算について極力うれしそうな顔を浮かべ、実際、決算報告には好ましい点が多々あったものの、笑顔の裏には、従来型のリニアTVからストリーミングTVへの転換期において、いちプレーヤーはおろか最大のプレーヤーになるだけでも気が済まず、「エンターテインメントのすべて」になろうとする考えに固執している不穏な兆候が見え隠れしていた。
ユーチューブの足元にも及ばない
この数年、ヘイスティングス氏はネットフリックスの成長見通しについてユーチューブを1つの尺度として使ってきた。17年4月のアナリスト向け決算説明の際にも、「我々の視聴時間は非常に大きく伸びているが、ユーチューブの足元にも及ばない」と述べ、当時ユーチューブの標準だった1日当たり10億時間の動画視聴時間を引き合いに出し、たかだか週10億時間のネットフリックスと比べてみせた。そして、「だから当然、ユーチューブには妬みを抱いている」と付け加えた。ヘイスティングス氏はほぼ毎四半期、ユーチューブを競合企業として挙げる。21日午後も同社を引き合いに出した。
少々無理のある目標を持つことは常にいいことだが、問題は、ネットフリックスがこの嫉妬心にさいなまれている兆しが見えるようになってきたことだ。
ユーチューブは11年に本誌ファストカンパニーの誌面上で、「初のグローバルなテレビ局、世界のリビングルーム」になる意向を表明した。ネットフリックスのテッド・サランドスCCO(最高コンテンツ責任者)は今回のテレビ電話会議による決算説明会で(ロスガトスよりは少しは暖かいロサンゼルスにいたためか、同僚たちのトレンドに反してブレザー姿で登場し)、ネットフリックスは世界の「すべての趣味」と「すべてのムード」に合う番組を制作していると語った。
さて、ユーチューブとネットフリックスの大きな違いは何だろうか。ユーチューブはほぼすべてのコンテンツをただで手に入れていることだ! すべてが無料であれば、世界のリビングルームはもちろん、世界中にある休憩スペースやトイレの中で、視聴者の“パートナー”になるのは、いとも簡単だ。
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