
グローバル市場で活躍する巨大なファッション産業が、その無駄の多さで環境を汚染し、気候変動の大きな原因になっている。現状を打開するため、消費者一人ひとりがファッション企業に変化を促すことができる。
ファッション産業が地球の滅亡に影響を及ぼしていると言う時、筆者は何も大げさに話しているわけではない。靴下やTシャツが気候変動の一因になっていると想像するのは難しいが、現にそうだと断言できる。
過去数年間で、この問題がどれほど深刻か研究によって定量化された。ファッション産業は世界の気候インパクト全体の8%以上を占め、飛行機と船の国際便が気候にもたらすインパクトの合計を上回っている。毎年、再生不能な資源を1億400万トン消費しているだけでなく、業界は2005年から15年にかけて生産を倍増させ、年間生産数量が500億点から1000億点に増えた。
ここで、地球上には人間が70億人しかいないことを考えてみてほしい。それなのに我々人間はものすごいペースで洋服を買っては捨てるため、トラックいっぱいの繊維が毎秒毎秒、埋め立て地に捨てられるか焼却されているのだ。
消費者もファッションがもたらす環境汚染問題を認識し始めている。メディアの報道や『Fashionopolis』『The Conscious Closet』といったこのテーマに関する数々の書籍、アウトドア用品の米Patagonia(パタゴニア)やファッション小売りの米Everlane(エバーレーン)など、会社のサプライチェーンとマーケティングにおいてサステナビリティー(持続可能性)を重視し始めたブランドのおかげだ。
サステナビリティーを推進する非営利団体グローバル・ファッション・アジェンダの研究報告では、19年に消費者の75%がサステナビリティーを「非常に重要」または「極めて重要」と考えていたことが分かった。消費者は現状に不満を抱いており、よりサステナブルな未来を追い求めている。
だが、ファッションは世界の隅々に消費者を抱える2.5兆ドル(約273兆円)規模のグローバル産業だ。同業界のサプライチェーンは巨大なうえに国際的で、原材料(綿花や羊毛、石油系プラスチック)の生産から、生地が裁断されて洋服に縫い上げられる工場、人々が店頭で買うまで洋服が保管される倉庫へと広がっている。
20年に問われる大きな問題は、我々はこの巨大産業に環境スチュワードシップ(環境保全のための行動規範)を打ち立てるため、必要な構造的な大変革を起こし始められるかどうか、だ。以下に、期待を持てる4つの理由を挙げよう。
包括的な改革はビジネスにとって有益
第1にこの数年間で、環境に優しい一部のブランド企業がさまざまな形で環境インパクトを減らそうとしてきた。例えばエバーレーンは、合成繊維の衣料で昔から使われているバージンプラスチック(未使用のプラスチック)を再生プラスチックに切り替える動きを先導し、米Paravel(パラベル)、米Reformation(リフォーメーション)といった多くのブランドが追随した。
イタリアの高級ファッションブランド、Gucci(グッチ)は原材料まで含め、同社のサプライチェーンで発生する二酸化炭素排出をすべて把握したうえでオフセット(相殺)する対策に乗り出し、同社のマルコ・ビッザーリCEO(最高経営責任者)はほかの企業経営者に追随するよう呼び掛けている。
米Christy Dawn(クリスティ・ドーン)やカンボジアに本拠を置くDorsu(ドース)のようなブランドは、ほかのブランドが発注したが、結局洋服に使われなかった死蔵生地(つまり、廃棄される運命にある生地)を利用している。
こうした対策は正しい方向へ進む一歩だ。また、これらの対策を取り込んだブランドの多くでは、会社のイメージと収益の双方にプラスの効果が出ている。20年には、さらに多くのブランドが素材から二酸化炭素排出、物流まで網羅したベストプラクティスを開発することになりそうだ。
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