
収束の兆しが見えない香港の大規模デモ。一般市民が危険回避に使っていたとされる地図アプリを削除したことで、米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)がツイッター上で激しい批判を浴びている。理想主義を掲げるアップルも、巨大市場を抱える中国を前に屈するのか──。
米アップルは営利企業である一方で、理想主義を掲げ進歩的で率直な企業と言われてきた。政治的な火種と化した香港で人気のソーシャルアプリの廃止をめぐって現在起きているように、2つのアイデンティティーが対立することはめったにない企業だった。
「HKmap.live(香港マップ・ドット・ライブ)」という名のアプリは、香港各地で起きている出来事を地図に表示するために、一般ユーザーから収集された情報を使っている。一連のデモが始まって以来、香港の人々はデモ隊や警察が集まっている場所を避けるため、このアプリを利用していた。ところがアップルは、HKmap.liveが警察を標的にするために利用されているとの報告を受け取ったことを明らかにし、10月10日付の従業員宛てのメモで、同社のクックCEOがHKmap.liveを削除した決断について伝えた。以下がメモの主要部分だ。
「この数日間で、香港サイバーセキュリティー・テクノロジー犯罪局(CSTCB)や香港の人々から、暴力目的で個々の警官を標的にし、また警察がいない場所で個人などをひどい目に遭わせるために、アプリが悪意を持って使われているという信頼に足る情報を得ました」
クック氏のメモが書かれたのは、人々が警察を標的にするためにアプリを使っていると簡潔にアップルが述べた声明文を公表した翌日のことだ。
香港議員やアップルウオッチャーから批判続出
今回の一件は、「ハイテク企業の中国へのへつらい」をめぐる議論を蒸し返した。この議論は最近、ドナルド・トランプ米大統領の貿易戦争の文脈においても関心を集めている。米プロバスケットボールNBAの「ヒューストン・ロケッツ」のダリル・モーリーGM(ゼネラルマネジャー)が10月4日、香港の抗議者を支持するツイートを投稿した後、中国で同チームに対する事実上の公式ボイコットが勃発したすぐ後の出来事でもある。
クック氏の判断に対して最も強い反対論を唱えているのは、恐らく、10日に同氏に宛てた公開書簡をツイッター上に投稿した莫乃光氏だろう。IT業界を代表する香港立法会(議会)議員の同氏は書簡で、HKmap.liveのおかげで、いかにして非政治的な住民がデモ隊と警官の衝突に巻き込まれるのを避けてきたかを詳細に説明した。
ハイテク系ブログ「Daring Fireball(デアリング・ファイアボール)」を運営するアップル通の著名ブロガーで、アプリ削除について矢継ぎ早に投稿したジョン・グルーバー氏は、アップルによるアプリ削除とその行為に対する説明を激しく糾弾した。
「これほどあっけなく瓦解するアップルのメモや声明はこれまで見たことがない」。同氏は10日、こう書いた。「普段、何かを削除する前に数えきれないほど評価を重ねる会社にとって、これは悲しいことであり、驚くべきことでもある」。
香港警察は確かにアップルに対し、警察が何らかの形でアプリによって被害を受けていると伝えたのかもしれない。だがその際、アップルに本当の理由を伝えなかった可能性もある。警察は、抗議者たちが実際、街頭レベルで戦術的な優位性を得るためにアプリを使っていると考えたのかもしれない。
中国の巨大市場、怒らせると事業にダメージ
もちろん、ハイテク企業にとって中国は巨大市場だ。ハイテク企業はこれまでも、表現の自由と人権について得意げに話しながら、規模が巨大でもうけの大きい中国市場にアクセスするときになると、そうした理想を無視すると批判されてきた。
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