米ファスト・カンパニー

米アップルが新型iPhoneで値上げを見送った。低迷するiPhone販売をテコ入れすると同時に、新しいゲームと動画のサブスクリプションサービスを楽しむ“器”として広げる戦略に切り替えた可能性がある。

「Apple Arcade」などの浸透を優先する?(写真/Shutterstock)
「Apple Arcade」などの浸透を優先する?(写真/Shutterstock)

 カリフォルニア州クパチーノで9月10日に開かれた米アップルの製品発表会では、処理速度の速いプロセッサーが搭載され、驚くようなカメラ機能刷新がなされたピカピカの新型「iPhone 11」シリーズがお披露目された。だが、お決まりの値上げがなかった。この数年、我々はアップルによる漸進的な値上げに慣らされていた。高級機種では特にそうだ。だが、今回の発表では値上げの気配もなく、アップルは昨年と同じ価格で高級機種の大規模なアップグレードを発表した。

 アップルはなぜ価格を引き上げるのを見送ったのか。もしかしたら、同社が端末販売からサービス事業へ重心を移そうとするなか、さえないiPhone販売をテコ入れすることを目指しているからかもしれない。

 調査会社クリエーティブ・ストラテジーズのアナリスト、カロリーナ・ミラネージ氏は、アップルは自社のサービス生態系(エコシステム)に人々を迎え入れるために比較的安い価格を設定していると話している。動画配信の「Apple TV+」やゲーム配信の「Apple Arcade」といった新サービスの機能を最大限に楽しめるように、強力なプロセッサーと高性能ディスプレーを備えた新しいiPhoneを使ってほしいと考えているのだという。

 もしiPhoneをはじめとしたいわゆる「iデバイス」が徐々にアップルのサービスを売る“自動販売機”になっていくなら、端末に最新技術を盛り込んだほうがいいというわけだ。

 アップルが今回発表した新型iPhoneの価格帯は昨年と同じか、それより安かった。入門機であるiPhone 11の基本価格は、昨年の「iPhone XR」より50ドル安い。高級機種の「iPhone 11 Pro」と「iPhone 11 Pro Max」は一代前と同じ価格だが、カメラの追加など、さまざまな機能が満載されている。いまだに価格は1000ドル以上するが、前の世代よりも優れた端末のように見える。

 値下げの流れは旧機種にも広がっている。10周年記念で発売された「iPhone X」は599ドルに値下げされ、発売当初の価格より400ドル安くなった。また、「iPhone 8」の価格は449ドルに引き下げられた。

 同社は最新のサービスについても、ライバルより安くなるよう設定した。TV+(アップルのオリジナル動画)のサブスクリプションは、月額わずか4.99ドルで販売する。他社の配信サービスと比べると、破格に安い。ゲーム配信のArcadeのサブスクリプションも月額4.99ドルだ。

 TV+は、まだテレビ番組を何もリリースしていないため、価格を安く設定する必要があったのかもしれない。だが、アップルは契約が特に容易になるようにしている。新しいiPhoneや「iPad」「Mac」を買う人は誰でも1年間のサブスクリプションが無料で付いてくるのだ。これはアップルのコンテンツへユーザーを取り込もうとする明確な作戦だ。

高価な携帯にそっぽ

 アップルは数年前、スマホの高級機種の価格を積極的に引き上げ始めた。アナリストの見立てでは、販売台数の減少を穴埋めする手段として、こうした旗艦スマホの値段を大きく引き上げていた。2017年、2018年には、この戦略が奏功しているように見えた。アップルの報告では、販売台数が横ばいだが、スマホ収入は伸びていたからだ。絶えず上昇する価格は、アップル最大の旗艦スマホの「ニューノーマル」のように思えた。

 その状況が変わったのかもしれない。調査会社のストラテジー・アナリティクスの調査によれば、消費者は高価な携帯にあまり寛容でなくなっている。スマホ所有者は今、平均して33カ月間、同じ携帯を継続保有する。18年の27.5カ月から延びた計算だ。その結果、iPhoneの販売台数は大幅に伸び悩み、今年4~6月期にはiPhone収入が前年比で12%減少した。年末商戦と重なる極めて重要な昨年10~12月期には、iPhoneの販売台数が6400万台となり、前年同期の7300万台から落ち込んだ。

 調査会社ガートナーのシニア・リサーチディレクター、アンシュル・グプタ氏はコメントで「ハイエンドのスマホの需要は、中価格帯、低価格帯のスマホの需要よりも大きなペースで鈍化した」と指摘している。なぜか。ストラテジー・アナリティクスの調査は、多くのスマホ購入者が、ほんのわずかの本物のイノベーションのために、あまりに高い値段を払っていると感じていることを示唆している。

 もしアップルが、iPhone事業の健全性を保ちながら新しいゲーム・動画配信サービスをデビューさせる最適なプラットフォームを提供するために、できる限り多くの人に機種アップグレードを促したいなら、スマホ最高機種の価格を常に引き上げる戦略から転換する必要があった。

端末の実質的な価値は上がった?

 もちろん、アップルが実際にiPhone 11 ProとPro Maxの価格を引き下げたわけではない。過去のiPhoneの発表が時折、完全に漸進的な変化を披露したのに対し、今年のiPhoneも付加価値をもたらしているとハイテクアナリストのアヴィ・グリーンガート氏は言う。確かに新しいiPhoneの値段は下がっておらず、据え置かれているが、端末の「価値」は上がっているかもしれないのだ。

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