
無料のコーヒー、自転車レンタル、公開イベント──。ハイテク企業や大手銀行が次世代の小売りスペースとしてこれらを提供し始めている。「リテールアポカリプス」とも呼ばれる小売り不況が背景にある。プライバシーのスキャンダルに揺れるフェイスブックもこの波に乗る。その狙いとは。
プライバシー問題をめぐるスキャンダルに見舞われてきた米フェイスブック。そんな同社が英国各地で「フェイスブック・カフェ」をこの9月に5店舗オープンする計画を発表した。英紙イブニング・スタンダードの報道によれば、カフェでは無料のコーヒーとともに、プライバシー設定の点検を受けられるという。
苦し紛れ、ただのPR作戦だと言われた。確かにそうかもしれない。だが、ハイテク企業が街中に存在感を築くという意味では、むしろフェイスブックは流れに乗るのが遅かった。期間限定のポップアップショップやブランドアクティベーション(編集部注:ブランドのイメージを定着させ、消費者に特定の行動をとらせる活動)、無料のイベントも開催する。小売り施設や一般向けのアメニティーは近年、企業戦略の重要な構成部分になった。「リテールアポカリプス(小売りの破滅的衰退)」によって商業用不動産がだぶついていることも背景にある。
米アップルや米大手商業銀行キャピタル・ワン・ファイナンシャルなど、各社はこぞって近隣地域にブランドの存在感を確立するチャンスをつかんでいる。
リテールアポカリプスの余波
都市は、米アマゾン・ドット・コム誕生後の世界で一体どうすればいいのか、まだ考えあぐねている。かつて街頭を埋め尽くしていたなじみの小売店はこの10年、次々と閉店していった。流血はまだ止まっていない。昨年、米国では5824店の小売店が閉鎖された。今年に入ってからも、すでに7062店が閉鎖しており、証券アナリストらは2019年末までに1万2000店を超える可能性もあると見ている。
確かに、いまだに毎年何千店もの小売店が新規オープンしているが、差し引きすると、かなり大きな純減になる。その様子は全米の都市や小規模ショッピングモールでじかに見ることができる。
空いた店舗は、家主が賃料を引き下げ、長期の賃貸契約よりも、むしろ短期的な現金獲得を考えることを意味している。これから至る所でオープンし、11月になったら消えていく季節限定のハロウィーンショップのようなものだ。
こうした空き店舗に入る企業は大抵、実験的な性質があり、オンラインで便利に注文できる商品ではなく、必要な対面サービスを提供している。目下、新しい小売業界で一番人気のプレーヤーの一角に入っているのが理学療法センターだ。
また思いも寄らぬ業界も、この変化を利用してきた。銀行業界である。多くの銀行が都市部の比較的規模が小さい空間で若い顧客を獲得することを目指し、地域の路面店で実験を行ってきた。一部のケースでは、こうした銀行(例えば大手銀行ウェルズ・ファーゴなど)は、店舗で新しい自動化技術を売り込むことに焦点を絞り、新しいデビットカードを発行できるATMを配備したりした。
だが、各行はこうした店舗スペースを近隣住民に優しい場所としても打ち出しており、無料Wi-Fiや顧客向けの自転車レンタルといった特典を提供している。キャピタル・ワンはこのアイデアを極端なレベルまで追求し、全米の主要都市に「キャピタル・ワン・カフェ」を展開している。
「ただの銀行ではない。新しい銀行業への思いだ」。それが同行のキャッチフレーズだ。カフェは基本的に好きに過ごせるコーヒーショップで、おまけに銀行サービスが付いてくる場所だ。キャピタル・ワンは米ピーツコーヒーとの提携によって、支払いにキャピタル・ワンのデビットカードかクレジットカードを利用する限り、好きなコーヒーを50%割引している。
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