
清涼飲料のマウンテン・デューがキャンペーンである地域の州名を間違えるミスをした。ツイッターではこれを非難するツイートが80万を超えた。発売元の米ペプシコは予定していたマーケティング施策を白紙に戻し、特別版のラベルまで作って、地元へ無料で配る手を打った。どうしてそこまで徹底したのか。
冷静に考えれば、ミシガン州のアッパーペニンシュラ(アッパー半島、通称UP)は決して広くない。どんなグローバルブランドにとっても、五大湖のスペリオル湖とミシガン湖を分かつ、約6万7000平方キロメートルの(主に荒野の)土地が優先事項になることはめったにない。
ところが2019年7月、UPのツイッターアカウントを管理しているバグジー・セイラー氏が、清涼飲料マウンテン・デューが「Dewnited States(デューナイテッド・ステーツ)」と銘打って6月に開始したキャンペーンで、誤ってUPをウィスコンシン州に入れていたことを非難した。
キャンペーンの地図では、UPは明らかにミシガン州の赤ではなく、ウィスコンシン州の緑と白に塗られていた(実際の地図はオリジナル記事参照)。
間違いを指摘された、マウンテン・デューの販売元である米ペプシコはどんな対応をしたのか──。やり方は幾通りもあっただろうが、同社は即刻、「特別版のUPラベルを作れ」というセイラー氏の挑戦的な指摘に応じた。そればかりか8月11日に、スペリオル湖畔マーケットにある同氏の小売店「アッパーペニンシュラ・サプライ」でのイベントで特別版を投入することを決定した。
地域イベントで従業員をタンクに突き落とす催しも
さらに12日になると、マウンテン・デューは地域の品評会イベント「アッパーペニンシュラ・ステートフェア」にテントを張り、地理的なミスの罪を償うため、数千点の商品や試飲を無料で提供。9万人の来場者の一部には、マウンテン・デュー担当の従業員を水の入ったタンクに突き落とす“権利”まで与えた。
住人30万人を超す程度の北部の小さな地域のために、なぜこれほどの努力を同社はつぎ込んだのだろう。マウンテン・デューのマーケティング担当幹部ニコール・ポートウッド氏は、結局のところ、一人ひとりが大切だという考えを軸としたファン・顧客対応へのアプローチに行き着くと説明する。
「彼らこそが商品を買ってくれる人であり、その行動によってブランドが成長するか失敗するかが決まる。今のソーシャルメディアの世界では、ほんのささいな火花が猛烈な森林火災を引き起こす。これは本当に真剣に扱わなければならない」
人が目にする大手ブランドのマーケティング策の要素は、すべてが無数の会議の結果であり、メディアの広告枠購入や放送予定といったロジスティクスなど、広告の複雑な仕組みを周到に定めている。地図上でのUPのミスを指摘された時、こうした予定がすべてがムダになった。
ポートウッド氏によれば、「ああ大変、このミスを何とか正さないといけない」というのが最初の反応だったという。
「間違ってもらっては困るが、テレビCMとデジタルコンテンツを修正するロジスティクスは信じられないほど複雑だった。けれど、ファンを最優先にするには、これをやらなければならない。間違いを犯した時には正直になり、問題を正すために繊細にならなければならない」
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