
オンラインショッピングの無料返品は、顧客の安心感を高めると同時に、EC企業やブランド企業にとって運送コストの増大という悩ましい問題を引き起こしてきた。インドのEC大手のミントラと、グーグルの研究者ら3人は、返品しそうな人を買う前に8割超の精度で判別する研究論文を発表した。
EC(電子商取引)専門の小売企業は、リアルな店舗に行くのと同じように、あるいはそれより優れた体験を提供することで顧客をオンラインに呼び込もうとする。無料返品。それは顧客がオンラインで買うリスクを減らすための方程式の重要な一部だった。
その結末でもあるだろう。2018年になると、販売された商品全体の10%、金額にして3690億ドル相当の商品が返品された、とのデータもある。
無料返品は、小売企業に莫大なコストをもたらす。インドのEC大手ミントラ・デザインズ(編集部注:ファッション専門サイト「ミントラ」を手がける持ち株会社)のデータ科学者、マンチット・マダン氏は次のように指摘する。
「返品の送料や倉庫代といった物流コストがかかる。かといって、商品が顧客の家に置かれたままだと、店としては顧客が返品してくるまで売れないという事情がある。そのうえ、商品が戻ってきた時に、再販できる状態じゃないこともある」
こうした事情もあって、エバーレーンからワービー・パーカー、アウェイなど、最初にオンラインで事業を立ち上げた多くのブランドが、実店舗も設けるようになっている。顧客がじかに商品を見て試着できるようにすれば、将来、商品が返品される可能性が低くなるからだ。
そして今、マダン氏と仲間の研究者たちは、ブランドが無駄を省き、オンラインショッピングの返品費用を削減できるツールを開発した。それは、商品を買う前にその人が返品する可能性を83%の精度で予想する方法だ。これを研究論文として発表した。
論文の共著者であるミントラのサジャン・ケディア氏、そしてグーグルのスミット・ブラール氏とともに、毎週舞い込んでくる数百万件の注文や返品を調べ上げた。その他、ミントラのウェブサイトに掲載されている50万以上の商品に顧客がどう反応しているかを研究した。
そのうえで、ある商品が返品される確率を予想するアルゴリズムを構築した。3人は、顧客の買い物履歴から顧客がネット上のショッピングカートに入れた具体的なアイテムまで検証していった。
その結果、顧客が大量の商品を返品する際には、特徴的なサインがあることを確認した。例えば、顧客がカートにたくさんの商品を入れた時には、返品が生じることが多い。商品が5点以上なら、どれかが返品される確率が72%。これに対して1点だけなら9%まで下がる。
また、比較的古い在庫は、たとえ割引価格だったとしても、新しいアイテムと比べて返品率が2倍になるという。そして返品のうち4%は、カートの中に類似商品がいくつか入っている時に生じる。「例えば、数種類のスポーツ用Tシャツを入れていて、色も似ていたりすることがある」とマダン氏は言う。
返品率が最も高い商品カテゴリーは?
また、買い物客の分類にも成功した。顧客の中には、まだ買いたい物を調べている段階にあり、最終的な選択をする前にいろんなアイテムやサイズを試す人もいる。こうした顧客は、リアル店舗をゆっくり見て回る体験と同じようにオンラインショッピングを扱い、さまざまなデザインを試してみたり、さまざまなブランドのサイズ設定を確認したりしている。
一方で、自分が欲しい物がはっきり分かっていて、当該商品を買う顧客もいる。こうした人は過去に買って満足した物を再注文しているかもしれないし、自宅にある商品の在庫を補充しているかもしれない。マダン氏は言う。
「異なるタイプの買い物客がいるという側面がある一方で、1人の顧客をとってみても、ある注文ではたくさんの商品を返品しながら、別の注文では1点も返品しないこともある」
ちなみに全米小売業協会(NRF)は、どの商品カテゴリーで返品が多いか追跡してみた。返品率が最も高いのが自動車部品で22.6%、2番目に高いのがアパレルで12.8%、続いて家庭用品の12.3%だった。
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