ミレニアル世代はファストファッションを着ない傾向にあるが、親の世代はまだそれを好んで選ぶ。このアンバランスこそ、米コストコを意外にもファッション小売り大手へ台頭させた“からくり”との見方が浮上している。

 会員制ディスカウントストア大手の米コストコは、一見ファッションの楽園には思えない。世界に800店を数える店舗は倉庫型で、床はコンクリート打ち放し、天井の照明はこうこうと照りつけている。洋服はといえばテーブルの上に山積みにされている。

コストコの会員カードと店内。気がつけばファッション小売り大手に(写真/Shutterstock)
コストコの会員カードと店内。気がつけばファッション小売り大手に(写真/Shutterstock)

 買い物に行く日にどんなブランドが売られているか、はっきりとは分からない。サイズが合うのか試そうにも試着室もない。洋服を着た時にどう見えるかという漠然としたイメージを与えてくれるマネキンさえない。

 にもかかわらず、どういうわけかコストコがファッション大手に躍り出た。バーゲン価格で商品を買うために年会費(60ドルから)を払う8500万人の会員は、大きな塊のサーモンや大量のパスタと一緒に、ザ・ノース・フェイスのジャケット(70ドル)やジェシカ・シンプソンのジーンズ(13ドル)を買い物かごに入れていく。

 ワシントン・ポスト紙によれば、コストコは衣料品・靴製品で年間70億ドルの収入を生んでいる。オールドネイビーやニーマンマーカス、ラルフローレンといったブランドを上回る金額だ。コストコのファッション関連の売上高は過去4年間、年間9%前後のペースで伸びており、食品、家電事業より成長率が高いという。

 コストコは「Kirkland(カークランド)」という衣料品の独自ブランドを手掛けている。一方で、エディー・バウアーからトリーバーチ、ビルケンシュトックまで、さまざまな大手ブランドからの売れ残りを大量に仕入れ、安い値段で売ってもいる。

顧客層がわりと「裕福」という資産

 一部のファッションブランドはコストコについて、「ブランドの評判を汚す」ことなく、余った商品を処分できることを評価していると、アナリストらはワシントン・ポストの取材に対し語っている。背景には、コストコの平均的な顧客がわりと裕福なことがある。年間世帯収入が10万ドル超と、多くのブランドが切望する顧客層なのだ。

 米国のファッション業界は今、「リテールアポカリプス(小売りの破滅的衰退)」という状況だ。全米で何千店もの小売店が閉店したり、ブランド自体が破綻したりしている。2019年だけでも7150店以上が閉店した。ここには、トップショップやドレスバーン、シャーロット・ルース、チコスなど、コストコに近い価格帯で商品を販売している多くのファッション小売りが含まれる。ジンボリー、ペイレス・シューソースといったブランド企業は破産申請した。

 ファッションや小売りのアナリスト(筆者も含む)の多くは、こうしたブランドが傾いたのは、オンラインで買い物をする選択肢がある顧客に、わくわくする店内体験を提供できなかったからだと論じてきた。また、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)やトップショップ、ザラのように、安価で流行の商品を販売することでブランドを構築してきたファストファッション企業が一時期の勢いを失ったことも事実だ。

 コストコの店内は特に快適ともいい切れないのに、効果的にファストファッションを売っている。一体何が起きているのか。

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