ついに、臓器も3Dプリントする時代が到来するかもしれない。人工心臓やゲノム編集で世界的に著名な米ライス大学で、人工肺の模型を3Dプリンターで作ることに成功した。2000年初頭からの研究課題は、弾力性のある血管のバイオプリント。特殊な色素を青色光に組み合わせたことが奏功した。

 人工心臓やゲノム編集で世界的に知られる米ライス大学のヒューストンにある研究室で、3Dプリンターで作られた小さな模型が人間の肺の一部のように動いている。模型に空気が送り込まれると、3Dプリントされた血管を赤血球が流れながら酸素を取り込んでいく。

3Dプリンターで臓器を“印刷”(写真はイメージ、写真/Shutterstock)
3Dプリンターで臓器を“印刷”(写真はイメージ、写真/Shutterstock)

 これは、他人からの臓器提供が必要な患者がウエーティングリストの順番を待つ代わりに、自分の細胞からバイオプリントされた臓器を得るという未来へ向けた一歩だ。現在、臓器移植を待っている人は米国だけでも10万人以上いる。移植を受けられた幸運な人も、臓器拒絶反応を防止するための治療を生涯受け続けなければならない。

 研究者たちは2000年代初頭から、臓器を3Dプリントするアイデアを探究してきた。その中で大きな課題の1つが、臓器を通る静脈網と毛細血管網をどうやって作ればよいかだった。細胞を生かし続けるには必須の機能である。

 今回の肺の模型を作るのに使われた新しいプロセスは、この問題を解決する1つの方法だ。「我々がやろうとしているのは、複雑な脈管構造を作ることだ。体の臓器をつくる上で最も重要な機能の1つが血管網だからだ」。

 ライス大学工学部のバイオエンジニアリングの助教授で、新しいバイオプリント技術に関する研究論文の執筆者の1人であるジョーダン・ミラー氏はこう語る。肺には気道と血管が必要だし、肝臓には胆管と血管が必要だ。

 もっとも、大半の3Dプリンターはプラスチックや金属の部品を作るよう設計されている。臓器プリントに使われるような、柔らかいハイドロゲルを扱うことが前提になってはいない。また、複雑なプラスチック成型をする材料の一部は、細胞を殺してしまうために、バイオプリンティングには利用できない。

 あるバイオプリントの手法では、対象物に青色光を当てたときにハイドロゲルの層が固まることが分かっていた。ただし、血管のために空洞を確保しておこうとしても、青色光が材料を固めてすき間をつぶしてしまう。

 このほど、ライス大学のバイオエンジニアたちがこの問題を回避する方法を見つけた。青色光を吸収する食用色素を使うことで、ハイドロゲルの層が形成される場所を精密に限定できるようにしたのだ。

 「我々は、ゲル構造の設計の自由度を極めて大きくできることに気づいた」とミラー氏。ものの数分で、複雑な構造をプリントすることができる。そして、自分自身の細胞を使って臓器がプリントされたら、その人の体はこれを異物とは見なさないため、生涯にわたって治療薬を飲む必要もなくなる。

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