家具一式のレンタルサービス試験や再利用できるモジュール式ソファの販売、そして店舗の一角には修理スキルを教える「学習ラボ」の設置まで、世界で一気に循環型経営へ舵(かじ)を切るイケア。社内のデザインチームは9500点に及ぶ取扱商品全体をもっと長持ちするよう見直しを進めているという。その内実に迫った。

 来年までにはイケアの椅子が欲しくなったら、買うのではなくリースできるようになるもしれない。椅子が会社に戻ってきたらイケアはそれを再び販売、最終的にはリサイクルにつなげていく。

 スウェーデンの家具大手イケアはこのほど、一握りの店舗で始まった家具レンタル制度の実証実験を米国、中国、インドなど世界30カ国に拡大すると発表した。これは循環型企業になる野心的なビジョンに向けた一歩となる。2030年までにすべての商品をリユース(再使用)、修理、アップグレード、リサイクルされるよう設計する計画だ。

店舗の在り方も変えるイケア(写真/Shutterstock)
店舗の在り方も変えるイケア(写真/Shutterstock)

 つまりは会社の抜本改革である。「ビジネスモデルを根本的に変え、顧客に全く異なる商品やサービスを提供することが目的だ」。11社あるフランチャイジーの最大企業としてイケアストアを367店運営するインカグループのCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)、ピーア・ハイデンマーク・クック氏はこう話す。

 世界の人口が増加し、自社製品を買いたがる人が増えるに従って、原材料の需給が逼迫することを認識している。そんなイケアにとって伝統的な製造方法──資源を採掘し、商品をつくり、最後はその商品を埋め立て地に送り込む消費者に売ること──は、もはや理にかなわない。同社はマスマーケット(大量消費市場)向けに値ごろな商品をつくっているため、膨大な量の原材料が必要になるわけだ。

 「資源不足というテーマに対処しなければ、我々がこの先、今の状況のままやっていけるとは思えない。つまり、会社が使う材料について考え直す必要があるということだ」とクック氏は言う。

 自社製品を引き取ることで、イケアは個々の商品の寿命を延ばせる。さらにその後、材料を再利用して別の商品をつくれば、トータルの原材料を抑制できる。これなら調達問題と環境問題の両方に対処できる。

 イケアは、温室効果ガスの削減量が排出量よりも多い「クライメートポジティブ」を30年に達成するには、自らが変わる必要があることを知っていた。店舗で再生可能エネルギーへ移行し、電動運搬車両を使い始めるにつれ、目標の一部は直接的に実現できる。

 だが、イケアのカーボンフットプリント(編集部注:商品やサービスのライフサイクル全体を通し排出される温室効果ガス量を二酸化炭素量に換算した数値)の大半は、企業活動以外のところに由来する。その多くは原材料で、だから材料の再使用やリサイクルは劇的なインパクトをもたらしてくれる。

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