米国のイノベーション事例として注目されているウーバーやリフトなどのライドシェア。「移動」の概念を大きく変えた一方で収益構造やビジネスモデル、ビッグデータはどう活用しているのかは明らかになっていない。シリコンバレー在住の日本人ドライバー吉元逸郎氏が課題の分析と提言も含めて連載する。

読者の方の中には、海外出張時にウーバーテクノロジーズやリフトのライドシェアサービスを利用したことがある方も多いと思う。スマホアプリさえあれば空港だけでなく、街中や郊外などどこでもクルマを呼ぶことができる。
乗車する際には、名前も行き先も伝える必要がない。運転手が確認してくれる。乗客が呼ぶ際にアプリで指定しているからだ。そして黙ってクルマを降りても大丈夫。自動で精算されて、レシートはメールに送信されてくる。おまけに従来のタクシーに比べて2~3割かそれ以上安い。他の乗客と同乗するタイプだと、長距離では半分から3分の1の料金になる場合もある。
安くて便利なため、多くの顧客がタクシーやレンタカーからライドシェアに流れた。またこれまでにない新規の移動の需要を創出した。一方で、米サンフランシスコや米ニューヨークなどでは大手タクシー会社が倒産するなどしている。
ウーバーやリフトはなぜこのビジネスを続けていられるのか。第1回目の今回は、ウーバーの収益性に関してシミュレーションを試み、ライドシェアのビジネスは本当に成り立つのか。現場の運転手の視点で将来性を論じてみたい。
実は大赤字のウーバーだが
ブルームバーグの報道によると、ウーバーの2017年の乗車の売り上げである取扱高は約4兆2000億円(370億ドル)である。赤字額は約5100億円(45億ドル)とのことだ。
ウーバーは売り上げの8割を運転手に支払っていると公表しており、残りの2割がウーバー側の取り分で売上高となる訳だ。4兆2000億円の2割で8400億円(74億ドル)となる。
ここからが重要だが、売上高がおよそ8400億円で赤字が約5100億円(45億ドル)にも上るということは、1兆3500億円ものお金を使った事になる。また、ドライバーの感覚からいくと乗車料金に対しては6割から7割しか支払われていないと感じている。ドライバーへのインセンティブやプロモーション費用などがその差分に含まれているからだ。
そもそも現在の“お得な”料金水準では到底ペイしないビジネスモデルなのであろうか。オペレーションコストも高いが関連するスタートアップ企業への投資や買収などに多額のお金を投じて赤字を計上しているのではないだろうか?
ではなぜこのような計算が成り立っているのか。その1つのカギが自動運転にある。仮にドライバーのクルマがすべて自動運転車で置き換わると、8割の3兆3600億円が浮くことになるのだ。
もちろんドライバーのクルマに置き換わる自動運転車や関連費用を負担する必要がある。ウーバーは契約ドライバーを約300万人、年間乗車回数が4億ライドと公表している。ただこれで計算するとドライバー1人当たり1日約4ライドとなってしまう。これは妥当ではない。
ウーバーの取扱高である4兆2000億円から見ると、筆者の想定では約50万人のフルタイムのドライバーが必要だ。単純計算で、1日10~11時間走行し、1日22ライドで200ドル程度を365日売り上げるというものだ。

ドライバーの代わりに発生する25万台の自動運転車の年間費用をみていこう。まず自動運転車の調達コストを年1700億円とした。25万台もの大量調達となるため1台200万円で、3年間で60万キロを走行するものとした時の1年間のコストだ。これに対するガソリン代は年2200億円(トヨタのプリウスなどのハイブリッド車で、燃費50マイル/ガロン。ガソリンが1ガロン3ドルで、年間20万キロの想定)、損害保険は1台当たり月3万円として年900億円となる。このほかメンテナンスなどで月5万円とすると年間で1500億円がかかる。
ここまでで合計6300億円であり、その他の費用を含めて全体で年7000億円と想定する。もちろん自動運転車の導入にともなう、インフラやオペレーションで、他に考慮するべきコストがあるかもしれない。
また、自動運転車を25万台にすると1つの不都合が生じる。ピーク時や突発的なイベントなどへの対応だ。画面はリフトがドライバーに提供している時間帯別の需要の情報だが、朝と晩にピークがあって昼や深夜には谷がある。移行期であることも含めて、そこを一般のドライバーのクルマでカバーすると考えるのが妥当だろう。現在の半分以下、4割程度のリソースがあれば大丈夫だろう。とすると、ドライバーへの支払いが年3兆3600億円から1兆3500億円まで圧縮される。
この前提で計算すると、ドライバーへの支払い額が圧縮され、ウーバーの売上高は自動運転車の費用が新たに生じても年2兆1500億円と約1兆3000億円も増えるのだ。単純計算だが5100億円という赤字が8000億円、つまり1兆円近い黒字に転じる可能性がある。
それぞれの条件は筆者の想定だが、ウーバーほどのスケールで展開するライドシェアビジネスのダイナミックな収益モデルをご理解いただけたと思う。そしてなぜウーバーが自動運転車の開発や導入にこだわるのか。そう、早く自動運転車を導入すればするほど利益が大きくなるからだ。
従来の常識にとらわれない収益モデル
こう考えると、米調査会社のCBインサイツなどの推計で、新規に株式を公開した際、8兆円を超える時価総額が予想されているのも納得がいく。CBインサイツは約8兆1000億円(720億ドル)としている。「ライドシェアの収益を解き明かす、実は黒字体質のウーバー」というタイトルをつけたが、現在は大幅な赤字を計上している。しかし「将来的に成り立つ可能性が高い」というのが正しいだろう。
ただ、こうしたユニコーン企業は、営業、投資、財務の3つのキャッシュフローで利益を出して存続していく普通の会社とは異なる。将来の期待の実現に向け、最先端技術の自社開発だけでなく、重要なテクノロジーを持つスタートアップなどへの投資や買収、新規事業への参入など積極果敢な攻めの事業展開を継続することで、利益を出さなくても資金が集まり、それでキャッシュフローが回っていく。例えば、ご存知のように最近では、ウーバーはトヨタ自動車やソフトバンクなどからも資金を調達している。

もちろん上記の計算は完全な自動運転が可能な「レベル5」のクルマが完成した暁の話である。それまでに想定以上の月日が過ぎると黒字化が遠のくこととなり、買収や投資を控えて、オペレーションコストを削減し、乗車料金も値上げせざるを得なくなるのではないか。
また、仮にレベル4や5の自動運転車が登場したとして、サンフランシスコの街中のような過密なトラフィックがあるところをきちんと通行できるのか。毎日運転しているドライバーとしてはいささか疑問である。相当の期間は、レベル5だけでなく、ドライバーが支援するレベル4以下や、現在のクルマも混在することだろう。
ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)は2018年9月のロイター通信のインタビューで2019年の株式公開に向け準備は順調だと語っている。一方、にわかに信じがたい話であるが、ニューヨーク・タイムズ紙は2018年10月、投資銀行のモルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスがウーバーに対して株式公開時に14兆円近い価値(1200億ドル)があるとの提案書を送ったとは報じられている。
こうした高い価値が期待される背景には、ここまで見てきたように自動運転車の実現がある。新規株式公開(IPO)によって自動運転車の開発が加速する可能性がある。その一方で、いつまでも実現しなければ、ウーバーのようなIPO時の価値が1000億円以上の「ユニコーン企業」に対する期待が失望に変わり、資金供給も途絶えてしまう可能性がある。ユニコーンバブル崩壊の引き金を引きかねない。
今回、ウーバーを例に将来的な収益性を検証した。大幅な赤字でもなぜ高い時価総額を期待されているのか。ご自身でも検証していただけたと思う。
次回以降は、第2部としてドライバーの現場視点からビジネスモデルとビッグデータの活用の具体例、第3部としてライドシェアビジネスの課題と提言を紹介する。最終回の第10回目では、「アイドルエコノミーとユニコーンクラブ」と題してスタートアップがキャッシュフローを気にせず、積極果敢な事業展開をするための仕掛けを紹介したいと思う。全10回の連載におつきあいいただければ幸いである。
ウーバーの収益性に関するシミュレーションの一部に誤りがありました。お詫びして訂正します。該当箇所は修正済みです。[2018/11/30 18:40]