糸井重里(いといしげさと)氏率いるほぼ日のロングセラー商品「ほぼ日手帳」。これまでの手帳の常識とは一線を画す商品として、18年間も売れ続けている、この連続的なイノベーションの裏側には、利用者の喜びを徹底的に追求するという独自の哲学があった。
「それは室町時代の人も喜ぶことなのか!」――。
ほぼ日手帳の開発を担当する大和倫子氏は、ほぼ日の社長である糸井重里(いといしげさと)氏から、入社以来、そう何度も言われ続けている。ほぼ日手帳を購入し、実際に使う人に「本当に喜んでもらえる」商品にするためには、どうしたらいいか。それをクリエイターである糸井氏は、冒頭のような言葉で問いかけるという。大和氏は、「人間にとって本質的な、本当の喜びとは何か。それを探るために、世間で一般的な常識さえも疑うようになった。そうした考え方を、糸井から徹底的に叩き込まれた」と振り返る。
ほぼ日の看板商品である、ほぼ日手帳が誕生したのは2001年10月。当初はわずか1種類、売れたのは1万2000冊だった。それが17年9月発売の「2018年版」では85アイテムまで増え、年間で78万冊を売り上げる大ヒット、ロングセラー商品になっている。最新の「2019年版」も全部で95アイテムと、異例なほど種類が豊富だ。
18年も続くロングセラー商品であるが、多額の広告宣伝費をかけて販売プロモーションを展開してきたわけではない。ビッグデータを活用して、デジタルマーケティングを展開して、といった今では当たり前の手法も、ほぼ日には無縁だ。それでも、ユニークな“イノベーション”を繰り返し、販売数を伸ばし続けている。その理由を探ると、1つのキーワードが浮かび上がってくる。「共感」である。
ほぼ日手帳の開発には、糸井氏の強い思いがこもっている。そのため単なる手帳でなく、「クリエイターが手掛けた作品」というべきものではあるが、その一見すると異色な共感を軸とした商品開発に対する姿勢は、一般的な企業がイノベーションを実現する上でも参考になる、多くの示唆に富んでいることが分かった。
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