米国コーネル大学経営大学院の職員として数々のグローバル企業の新市場開拓や新規ビジネス開発プロジェクトに参加してきた唐川靖弘氏。それらの経験を通じ、唐川氏がイノベーションを起こす組織に必要だと実感したのが「抜け穴」だったという。
「イノベーション」という言葉がここ数年、バズワードになっている。イノベーションを生み出すべく、多くの日本企業が、アイデアソンのスポンサーとなったりワークショップを実施したりしながら、新しいアイデアの創出にいそしんでいる。
社内外から数多くのアイデアを集め、単発的なビジネスの立ち上げサイクルを高速回転する場合には、このアプローチも機能するだろう。しかし、リソースが限られたなかで延々とアイデア開発1000本ノックを続けることは、容易なことではない。
イノベーションを持続的に起こしていくには、その芽となるアイデアがあらゆるところから常に湧き出でてくるよう、チームの中に多様な価値観を根付かせることが重要だ。多様な価値観は、チームメンバー個々の感性や思考、それらにひも付く数多の知識・経験・人脈などによってもたらされる。それも、一人のスタープレイヤーだけに頼るのではなく、個々が持つ力を絶え間なく最大限に発揮し合えるよう、組織としての仕組みが必要となる。
その一例として「スカンクワークス」がある。スカンクワークスはもともと米ロッキード社の極秘特命開発チームの名称であり、現在では部門横断型で組織化された特命チームやそのプロジェクトのことを指す。筆者は、米コーネル大学経営大学院の職員として、グローバル企業の新市場開拓に伴走するコンサルティング業務を担っているが、これまで従事してきたプロジェクトの多くが、このようなスカンクワークス型のプロジェクトであった。
いくつかの事例を紹介したい。まずは、某グローバル消費財メーカーのナイジェリアでのプロジェクトだ。英国ロンドン本社にあるイノベーション本部メンバーを中核としつつ、シンガポール地域本社からは研究開発、製品開発、ビジネス開発のメンバーが、ナイジェリア販社からはマーケティング、流通販売のメンバーが集められ、グローバル規模で総勢約20人が組織化された。筆者は、外部コンサルタントとして約1年にわたりチームと行動を共にした。その結果、市場で小さな実証実験を何度も繰り返した後、新しいビジネスモデルと商品の開発へとつながっていった。
また某グローバル教育会社のプロジェクトでは、ニューヨーク本社のソーシャルイノベーション本部メンバーをリーダーに、香港支社の研究開発や製品開発のメンバーや、中国支社の流通販売のメンバーなどが参画した。チームには初期段階から十分な予算が投じられたことも幸いし、プロトタイプの開発や小規模市場での実証実験など、上市に向けたアプローチが迅速に進行していった。

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