一橋ビジネススクールの楠木建教授がイノベーションの好例として挙げる、ヤッホーブルーイング。成熟したビール市場でイノベーションを起こした同社には創業当初から一貫して「トレードオフ」という戦略があった。

 「イノベーション」がバズワードとなり、「技術革新」「新しい発明」など技術的な進歩という意味で使われることもある。しかし、競争戦略を専門とする一橋ビジネススクールの楠木建教授は「イノベーションと進歩は全く別物」という。

 「イノベーションとはオルタナティブ(新機軸)を作ること。5分充電するだけで1年間使えるスマホが出てきたとしても、それはすごい進歩ではあるが、イノベーションではない。進歩は『画面が明るくなる』『稼働時間が長くなる』など価値が連続しているものなのに対し、イノベーションの本質は非連続性。つまり、価値の次元が変わるということ。何が良いのかという価値の定義そのものが変わるのがイノベーションだ」

「ヤッホーがやっていることは、源流は米国のクラフトビール文化にあるが、日本のビール市場で何が良いかという価値基準を変えた点でイノベーションといえる」と一橋ビジネススクールの楠木建教授
「ヤッホーがやっていることは、源流は米国のクラフトビール文化にあるが、日本のビール市場で何が良いかという価値基準を変えた点でイノベーションといえる」と一橋ビジネススクールの楠木建教授

 その意味でのイノベーションの好例といえるのが、「よなよなエール」をメインに展開するクラフトビールメーカー・ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)だという。「ビール市場ではこれまでコクやキレが価値だったが、ヤッホーはエールビールでおいしさの定義を変えた」(楠木教授)。

 では、ヤッホーはいかにしてイノベーションを起こしたのか。長期低迷期を乗り越え、13年連続増収増益という成長を達成した背景については特集「CEOが明かす ブレークスルーの瞬間」の中で詳しく触れた(「ヤッホー社長が語る廃業危機 星野リゾート社長の一言で涙の発奮」を参照)。しかし実は、同社には創業当初から貫いてきた戦略があった。それが「トレードオフ」だ。

 トレードオフとは二者択一という意味で、何かをとったら何かを捨てるということ。ヤッホーの井手直行社長は、「ヤッホーは米国の経営学者であるマイケル・ポーター氏が提唱するトレードオフを戦略としており、何かをとったら何かを捨てる勇気を持つ会社。それこそが差別化であり、競争力を生む」と言い切る。

「ヤッホーブルーイングは何かをとったら何かを捨てる勇気を持つ会社」と言い切る井手直行社長
「ヤッホーブルーイングは何かをとったら何かを捨てる勇気を持つ会社」と言い切る井手直行社長