5G(第5世代移動通信システム)は通信会社だけでなく、メーカーにとっても大きなビジネスチャンス。携帯端末はもちろん、自社の技術力を生かせば、今までにない新しい市場を開拓できるからだ。8回目はシャープやNECなどメーカーの思惑について取材した。

シャープが「CEATEC JAPAN 2018」でデモしていた5Gによる8K映像の3チャンネル画面。サッカー風景を表示しており、当日の天候の様子まで臨場感が伝わった
シャープが「CEATEC JAPAN 2018」でデモしていた5Gによる8K映像の3チャンネル画面。サッカー風景を表示しており、当日の天候の様子まで臨場感が伝わった

 シャープやNECが5Gビジネスに向けて、さまざまな布石を打ち始めた。メーカーにとっても新市場を開拓できるだけに、自社が抱える技術と5Gをいかに連携させるかがポイントになる。

 シャープは、2018年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2018」で5Gを活用した「8Kマルチチャンネル同期伝送」をデモして来場者の注目を集めていた。4Kによる伝送実験が多いなか、8Kによる成果を強調するのは、世界初の8K対応テレビを発表したシャープならではだ。

ライブ中継をマルチ画面で楽しむ

 今回のデモでは、3台の8Kカメラで同じサッカー試合を撮影し、それぞれの8K映像の同期を取って5Gで送信。それを再度、3台の8Kモニターに表示していた。実用化すれば、ユーザーは同じスポーツ中継を自分が見たい場面に応じて切り替えることができる。例えば、サッカー場を俯瞰(ふかん)する8K映像で試合の流れを見ながら、好きな選手の動きだけを8K映像で追ったりする、といった使い方ができそうだ。「“8Kの世界は5Gで”を訴求ポイントにして、8Kのメリットを強くアピールしていきたい」とシャープ通信・映像技術研究所第二研究室の浜口泰弘部長は言う。

 複数チャンネルによる8K映像の伝送は従来の圧縮技術では安定した対応ができず、難しかった。それを可能にしたのが、シャープが国際標準化に貢献した独自の「MMT(MPEG Media Transport)技術」だ。この技術を用い、17年には5Gを活用した8K映像を12チャンネルで伝送する実験をNTTドコモと共同で行っている。NTTドコモが5Gの実験装置などを提供。シャープは8K映像のコンテンツの送出や受信に関する装置を開発した。今回のデモでは3チャンネルだったが、8Kカメラなどの機材がそろえば、もっと複数の画面でスポーツ中継を楽しめる。理論上では最大で30チャンネルまでは可能という。

 8K映像の可能性は大きく広がるとみられる。スポーツ中継などエンターテインメント分野だけでなく、セキュリティー画像や生産ラインでの検査画像の解析など、多くの市場で今までにない高精細のメリットを生かせるはずだ。5Gを8K映像を普及させるための起爆剤にしたい、とシャープはもくろむ。

シャープが参考出品していた「広帯域デジタル放送受信機」。MMT技術で圧縮された8K映像を復号化する
シャープが参考出品していた「広帯域デジタル放送受信機」。MMT技術で圧縮された8K映像を復号化する

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