12月21日、ディズニーアニメーションの最新作『シュガー・ラッシュ:オンライン』が公開された。同作のプロデューサーを担ったウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのクラーク・スペンサー氏は、11月29日のイベント「日経クロストレンド EXPO 2018」に登壇。今作ではインターネットの世界を舞台にし、その背景を語った。

アーケードゲームのキャラクターであるラルフとヴァネロペが、人間が知らないゲームの裏側の世界で冒険を繰り広げ、友情を育む、ディズニー映画『シュガー・ラッシュ』(2012年)の続編が、全国で12月21日に公開される『シュガー・ラッシュ:オンライン』だ。先駆けて公開された全米では3週連続で興行収入トップを記録し、日本でも興収が約30億円だった前作に続くヒットが有望視されている。
邦題に「オンライン」とうたわれているように(原題はRalph Breaks the Internet)、舞台は今や世界の多くの人々がパソコンやスマートフォンを介して日常的に利用している“インターネット”。ゲームセンターのレースゲーム「シュガー・ラッシュ」のハンドルが壊れたため、代わりをオークションサイトで手に入れようと、ラルフとヴァネロペがインターネットの世界を旅する物語になっている。
仮想空間にあるもう1つの広大な世界をどうディズニー流に解釈して、アニメーションに落とし込むか──。世界観の構築が焦点となる中、制作チームが最初に手を付けたのが「リサーチ」だ。『リロ&ステッチ』や『ボルト』、前作の『シュガー・ラッシュ』に財務や運営、製作で関わり、本作でも製作責任者として、劇中に登場する世界中の実在の企業やSNSとの交渉を一手に担ったプロデューサーのクラーク・スペンサー氏は次のように話す。
「我々はどの映画でも常に同じことから始めます。『ズートピア』ではアフリカのサバンナ、『モアナと伝説の海』では南太平洋の島々、『アナと雪の女王』ではノルウェーにまで行って、リサーチしているのです。そこで、今回はインターネットの初期に関わった専門家を訪ね、実に興味深い考えを聞くことができました。それは、インターネットの世界は、ローマやイスタンブールなど古代都市の成り立ちと同様に、古いWebサイトの上に新しいWebサイトを積み上げてきただけの構造であること。つまり、インターネットは多層の縦型の世界であるということです。これをヒントに、古いWebサイトのGeoCitiesやNapsterが下層にあり、その上に誰もが匿名でウイルスや詐欺が蔓延するダークネット、さらにその上に我々が利用している今のインターネットがある全体像を作り上げることができたのです」
一方、もう1つ世界観を構成するのに役立ったのが、米ロサンゼルスのダウンタウンにあり、西海岸の全てのインターネット通信が経由するビル「One Wilshire」に足を運び、建物内に張り巡らされたワイヤや無数の装置を目にしたこと。「この1つのビルから全世界のインターネットとつながっていることにインスピレーションを受けた」とスペンサー氏は話す。劇中では、ラルフとヴァネロペがワイヤを通じてインターネットの世界にダイナミックに送り込まれるシーンで、この知見が存分に生かされている事実を知ることができるだろう。
ネットの巨人たちが特大ビルになって出現

インターネットのWebサイト数は15億を超えると言われる中、本作では主要サイトを巨大ビルに見立て、金融街やショッピング街、SNS街などに分けて配置し、仮想の大都市を作り出している。そこには、AmazonやGoogle、Facebookだけでなく日本のLINE、楽天などの特大ビルもあり、いかにもありそうな空想上の街並みを巧みに表現している。こうした1つ1つのグローバル企業を劇中に登場させるには、許諾のための交渉が不可欠であり、スペンサー氏のプロデューサーとしての敏腕ぶりが発揮されたことは想像に難くない。
そして、街では仮想の世界に住む人たちも、せわしなく動き回っている。それらは、“ネットユーザーのアバターたち”と“ネット住民”の2種類のグループに分けて設定。つまり、現実世界のユーザーがパソコン、スマホから要求する「検索」や「購入」といった行為を仮想世界ではアバターが代わりに行い、ネット住人はそうした行為を手助けする構図だ。その役割分担をスペンサー氏は、「例えば、ユーザーが食べログやTripAdvisorで“タコスレストラン”を検索した場合、ネット住人たちが該当しそうな店の情報を次々と持ち寄り、その中からアバターが最適な店を選ぶようなイメージ」と、説明する。一例として、実際の作品内では、オークションサイトのeBayのビル内で、ネット住人が出品物をあちこちで競りにかけ、アバターたちが応札するユーモラスな世界観を描写。ラルフとヴァネロペもeBayの競りに他のアバターと共に参加し、目的のハンドルに入札する場面が描かれている。
注目すべき点はまだある。それは、ヴァネロペが迷い込んだディズニーキャラクターが集まるサイト「Oh! My Disney」の建物でのシーン。アイアンマンや、『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーなどが登場する中、ヴァネロペが『スター・ウォーズ』のストームトルーパーに見つかり、追われて逃げ込んだ立ち入り禁止の部屋には、歴代のディズニープリンセスたちが集結。「このシーンのすごいところは、過去の映画でプリンセスの声を担当した同じ声優が、ここでも演じていること」と、スペンサー氏は秘話を披露する。こうした豪華な共演が実現できるのは、実写からアニメまで、有力なコンテンツとキャラクターを一手に抱えるディズニーならではの力技だろう。
監督は『ズートピア』でオスカーを受賞したリッチ・ムーア氏で、同作品で脚本を担当したフィル・ジョンストン氏が本作でも脚本を手掛ける。加えて、『アナと雪の女王』で共同監督と脚本を担ったジェニファー・リー氏、『ベイマックス』の共同監督クリス・ウィリアムズ氏も参画。「過去10年でディズニーに最も成功をもたらしている制作陣」と、スペンサー氏は胸を張る。また、携わったクリエイターなどの数は日本を含む世界25カ国以上、800人以上に及ぶという。およそ30年前の1989年、日本企業の経営を研究する一環で自動車工場の組み立てラインで働いた経験を持つスペンサー氏は、「各自が完成車への貢献を誇りに思い、集団の努力で達成することを栄誉とする仕事の姿勢を学んだ」とし、今回もクリエイターが一丸となり、努力と情熱を持って作り上げたことが重要と話す。日本的な集団の力を生かす体制をベースに、まさにディズニーが総力を結集して作り上げた『シュガー・ラッシュ:オンライン』。年末年始の映画興行の台風の目になりそうだ。
(写真/新関雅士)