AI(人工知能)による画像認識技術は飛躍的に向上し、防犯カメラによる不審者の検知や無人店舗管理システムなど、街中のさまざまな場所で利用されている。2018年11月に開催した「日経クロストレンド EXPO 2018」内の講演「AIが変える暮らし、街づくり」で、その最先端事例が披露された。
近年、米エヌビディア(NVIDIA)はAI分野のソリューション開発に注力している。GPU(画像処理半導体)技術を生かしたAI向けチップの開発をはじめ、自動運転車の開発プラットフォーム「NVIDIA DRIVE」の開発や、データを収集する端末機器の近くで稼働するエッジコンピューター向け組み込みAIボード「NVIDIA Jetson TX2」の提供などが、それに当たる。
登壇したエヌビディア インダストリー事業部ビジネスデベロップメント シニアマネージャーの鈴木紀行氏は、「今やAIは、医療機関での画像診断や、製造ラインの故障予知といった分野だけでなく、野生動物の保護などにも活用されている。例えば、見分けが難しいシマウマの個体も、AIで認識してラベル付けができる」と語り、さまざまな分野で活用されていること強調した。

エヌビディアでは、「AIを活用した安全な街作り」にも取り組んでいる。具体的にはビル内部や公共施設での人物検索や、街中での歩行者数測定、自動車の車種やナンバープレートの検知などだ。こうした技術は新しいものではないが、コンピューター処理解析性能やネットワーク負荷などの課題があり、実用化には時間がかかっていた。
その取り組みの1つが、「NVIDIA Metropolis」パートナープログラムである。同プログラムは、動画分析プラットフォームを通じ、パートナー企業とエコシステムを構築するもの。パートナー企業は、AIによる動画分析機能を、簡単に自社製品に組み込めるようになる。約140社が参加しているという。
講演ではエヌビディアのパートナー企業として、クラウディアン、オプティム、アースアイズ、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の4社が紹介され、それぞれの製品や自社のAIに関する取り組みを紹介した。
エッジ側でのデータ処理は必須
最初に登壇したのはクラウディアン(東京・渋谷)代表取締役CEOの太田洋氏だ。同氏はエッジ側でAI処理を実行する小型デバイスの「CLOUDIAN AI BOX(以下、AI BOX)」を紹介。同デバイスのソリューション活用事例として、交通量計測の自動化システム「Smart Traffic(以下、スマトラ)」について説明した。

スマトラは、ネットワークカメラとJetson TX2を搭載したAI BOX、クラウドサービスで構成される。ネットワークカメラで撮影した画像をAI BOXでデータ処理/分析し、その結果をクラウド側に送信する。エッジ側(AI BOX)が高性能な演算能力を持つことで、通信データ量および通信コストの削減や、高精度な映像の分析が可能になる。
太田氏は「エッジで映像をリアルタイム処理できることは、産業装置の制御やロボット操作、さらに自動運転技術にも役立つ。また、個人が特定できる映像をエッジ処理することで、クラウド側には分析結果(数値データ)のみが保存されるので、プライバシー保護にも役に立つ」と語り、エッジ側でAI処理を実行するエッジコンピューティングのメリットを強調した。
AIで害虫の位置を特定して農薬散布
次に登壇したのは、オプティム プラットフォーム事業本部マネージャーの濱場匡之氏だ。2000年創立で、佐賀県佐賀市に本店を置く同社は、従業員450名のうち80%をソフトウエアエンジニアで占める技術屋集団である。「世界一、AIを実用化させる企業」を目指し、自治体、健康、小売り、流通など、各業種向けAIソリューションを提供している。

興味深いのは農業向けソリューションだ。同社は、減農薬農業を実現するための「ピンポイント農薬散布テクノロジー」を開発した。ドローンで畑や水田の農作物を撮影し、AIによる画像解析で害虫の位置(葉に穴が開いているかどうかで判断)を特定し、ドローンでピンポイントに農薬を散布するというもの。その結果、収量や品質を下げることなく、農薬使用量を90%削減することに成功したという。
もう1つ紹介したのは、市販カメラでも利用できるAI画像解析技術と各業界に特化した学習済みAIモデルをプリセットにした「OPTiM AI Camera」である。小売り、飲食、鉄道、銀行、製造、集合住宅、公共、空港、学校、オフィスビルの10業種に特化した学習済みAIモデルを、AI画像解析技術と共にサービスとして提供する。すでに300種を超える学習済みAIモデル用意されているとのことだ。
濱場氏は、「実用的なAIサービスを提供するには、誰でも分かる、すぐ使えるものでなくてはならない。AIサービスを提供する側は、必要であれば(AI製品を活用した)ビジネスモデルも提案できる力を求められる」と強調した。
“振る舞い検知”で万引き被害を4割削減
画像認識技術が最も活用されているのは、監視カメラだろう。アースアイズ(東京・中央)は来店者の行動をAIで分析し、不審者を検知して万引きを防止するサービス「AIガードマン」を紹介した。導入した店舗では、約6カ月間で万引き被害額が導入前よりも約4割減少したという。
同社によると、小売店舗では来店者の350人に1人が万引き犯で、年間の万引き被害総額は小売業全体で推定4000億円に上るという。代表取締役の山内三郎氏は、「これまでの万引き対策は、監視のための防犯カメラや私服警備員の配置で、そのコストは小売業を圧迫していた」と指摘する。

万引き犯は一般の買い物客とは見ている方向が違ったり、死角位置にとどまったりする。AIカメラの画像解析でそうした不審行動を検知できれば、従業員が声をかけて万引きを未然に防止できると同時に、抑止力にもなる。山内氏は、「われわれの製品が、そうした課題解決のひとつの手段になればと考えている」とコメントした。
10年前の顔でもAIで照合可能
最後に登壇したのは、パナソニック コネクティッドソリューションズ社のセキュリティシステム事業部インテリジェントサーベランスSBUグローバルプロモーション総括担当の関口裕氏だ。同氏はディープラーニングによる顔認証システムの「FacePRO」を紹介した。高精度の顔認証ソフトウエアと、同社のネットワークカメラ「i-PRO EXTREME」で構成される。あらかじめ登録された顔画像と撮影された顔画像が照合されると、アラーム通知などが行われる仕組み。利用用途は、主に公共機関のセキュリティー監視や入国審査の本人確認で、国際空港の自動化ゲートではすでに導入されているという。

関口氏は、「公共施設の監視カメラで撮影される映像は、必ずしも鮮明なものではなく、人物特定に限界があった。FacePROではディープラーニング技術を使って、斜めに向いた顔や経年変化した顔、サングラスやマスクなどで顔の一部分が隠れている場合でも、照合を可能にした」と説明。将来的には公共施設の監視や入場管理など、さまざまなシーンでの活用を図りたいとしている。