米アマゾン・ドット・コムでデバイス部門 Smart Home事業担当 バイス・プレジデント(VP)のダニエル・ラウシュ氏は2018年11月29日、イベント「日経クロストレンド EXPO 2018」に登壇。提供開始から4年たった音声AI(人工知能)「Amazon Alexa」の利用実態やエコシステム戦略を語った。

家庭内の電化製品やAV機器をネットワークに接続し、一元的に管理するスマートホーム。現在、その中核を担うデバイスとして注目されているのが、音声認識技術を搭載したスマートスピーカーだ。話しかけるだけで照明を点灯させたり、リクエストに応じて選曲をしたりする。
Alexa、1億回以上のジョークを強要される
ラウシュ氏は「Amazonが創る音声ファーストの未来 ~日常生活に浸透し、快適な日々を支える存在となる音声ファースト~」と題した講演で、「Alexaは誕生してから4年しかたっていない。現在のAlexaは、進歩の表面をかすっただけの(未熟な)レベルだが、その潜在的な可能性は無限大だ」と力説した。
現在、アマゾンではAlexaを搭載したスマートスピーカーの「Amazon Echo」「Echo Dot」をはじめ、10.1インチのHDタッチスクリーンを搭載した「Amazon Echo Show」、アンプ機能を搭載した「Amazon Echo Link/Echo Link Amp」などを発売している。特にEcho Dotは30~50ドル程度で購入できるため、米国では各部屋に1台ずつEcho Dotなどを置く家庭も珍しくない。
当初、アマゾンではAlexaの使い方について「音声コマンド入力としての役割が大半」(ラウシュ氏)になると考えていた。しかし、ユーザーは、Alexaを日常生活のなかに取り込み、あたかも家族の一員のように扱っているという。
「ユーザーはAlexaにさまざまな要求をしている。サービス開始から4年間でAlexaは、100万回『Happy Birthday』を歌い、1億回以上ジョークを提供してきた(笑)」(ラウシュ氏)。
現在、Alexaは世界14カ国で提供され、ユーザーとの会話によってあらゆるデータを蓄積・学習し、その精度を向上させている。ラウシュ氏は「今後は国ごとでAlexaの“性格”を変える──同じ内容の質問でもリアクションを変える──ことを検討していく」と、その将来像を語った。

開発キットやAPIを公開してエコシステムを強化
Alexaが急速に普及した背景には、アマゾンのエコシステム戦略がある。同社はサードパーティーがAlexaを自社製品に組み込むためのSDK(ソフトウエア開発キット)である「Alexa Skills Kit(ASK)」やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の「Alexa Voice Service(AVS)」、さらに通信モジュールや半導体がセットになった小型ボードの開発キット「Alexa Connect Kit(ACK)」などを提供している。これらを活用すれば、家電メーカーや自動車メーカー、住宅メーカーといったサードパーティーは、最小限の開発労力で自社の製品/サービスにAlexaを組み込める。
講演ではその事例の1社として、アイリスオーヤマのLED照明機器を紹介した。
アイリスオーヤマではAlexa対応のLEDシーリングとLED電球を販売している。明るさや色調、点灯/消灯を音声で操作できる。同社では「例えば、子どもの世話をしていたり料理をしていたりして両手が塞がっているような状態では、音声入力で照明が操作できる利便性は高い」と、そのメリットを強調する。
ラウシュ氏は、「スマートホームのコンセプトは以前から喧伝(けんでん)されていたが、実現したのは最近で、そのけん引役となったのがAlexaだ。音声認識が普及する以前は、スマートフォンを介して家庭内にあるコネクテッドデバイスを操作する試みがなされたが、それは失敗した。目の前にあるデバイスのスイッチを操作するために、わざわざスマホのアプリを立ち上げる人はいない。その点、Alexaは操作がシンプルであり、『快適性』の観点からもアドバンテージがある」と語る。
現在は冷蔵庫や電子レンジといった家電製品から、芝刈り機やスプリンクラーなどの農業・園芸用機器までAlexa対応の製品が市場に投入されている。ラウシュ氏によると、世界で約3500のブランドがASKやAVS、ACKを活用して開発した製品を提供しており、その数は直近の11カ月で約2万点に上ったとのことだ。
さらにアマゾンではスマートホーム製品を対象とした認定プログラム「Works with Alexa」も実施している。これは、製品の応答性、信頼性、機能性を向上させることを目的としたもので、アマゾンの認定テスト部門が認定審査とテストを実施する。製品が認定されると、製品に「Works with Alexa」のバッジ(ロゴ)を提示できるようになる。こちらも直近1年間で、認定デバイス数は300%の伸びを示しているという。
生活支援サービス事業者もエコシステムに取り込む
また講演では包括的なスマートホームサービスの例として、ソニーネットワークコミュニケーションズの「MANOMA(マノマ)」を紹介した。これは、「機器とサービスが連動しながら日々の生活をサポートし、新しいライフスタイルを提案するサービス」(同社)で、Alexa対応の「AIホームゲートウェイ」や「室内コミュニケーションカメラ」、スマートフォンで鍵の開閉を操作できる「Qrio Lock」、落とし物を見つけやすくするスマートタグの「Qrio Smart Tag」などで構成される。
説明に登壇したソニーネットワークコミュニケーションズの担当者は、「MANOMAのサービスコンセプトは、『セキュリティ』『自動化』『ニューライフスタイル』だ。室内コミュニケーションカメラを用いた監視や不審者侵入のアラートといった機能から、音声による戸締まり確認、帰宅時に合わせて室内の温度/湿度を最適化するといった機能を提供する」と説明する。
さらに今後は、家事代行やハウスクリーニング、ペットサービス、介護、宅食サービスなど、生活支援サービス事業者との連携を視野に入れているという。具体的には、あらかじめ登録した事業者の訪問時には遠隔操作でドアを解錠したり、室内コミュニケーションカメラを介して生活支援サービス事業者にリアルタイムで指示を出したりといった具合だ。なお、こうしたサービスは、19年2月の提供開始を予定しているという。
最後にラウシュ氏は、「音声認識は始まったばかりの技術であり、進化の1日目だ。普及するためには、多くの人が実際に体験し、その利便性と可能性を感じてほしい」と訴求し、講演を締めくくった。

(写真/新関雅士、鈴木恭子)