マツダの革新をデザインで引っ張ってきた同社常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏。伝統と革新、合理性と無駄…。デザインとは、時として相反する命題に向かい合い、1つの「形」にまとめ上げる宿命を持つ。前田氏だけが語り得るデザイン論。テーマは「相克」。
デザインテーマ「魂動(こどう)」を打ち出し、広島の自動車メーカー、マツダの改革をデザインで牽引してきた人物、前田育男と、その中学・高校時代の同級生、仲森智博(日経BP総研フェロー)が、気鋭の刀匠、髙見國一の仕事場を訪ね、語り合う鼎談、第2弾。
話は、技の継承から手仕事の意味といった「ものづくり」の根幹へと向かい、ついにはコラボレーションの提案まで飛び出しながら、鍛練され、深い輝きを放っていきます。話題の連載、第5幕、はじまり、はじまり!
── 先ほどの鍛錬、まだあの迫力の余韻が残っているんですけれど、向鎚(師匠の指示に従って鉄をたたく助手役)は、お弟子さんですか?
髙見 ええ、そうです。弟子入りしてまだ半年ですが、実は今日初めて「向鎚」を振るったんですよ。
前田 おお、それはすごいタイミング!
── 前田やカメラマンの栗原さんがすぐそばまで近寄っていたけど、ちっとも動じていませんでしたね。初めてなのに、よく集中できるなあ(笑)。
前田 初仕事の邪魔をしてしまったようで。
弟子(小田道哉氏) いえ、大丈夫です(笑)。
前田 そうだとしたら、邪魔が目に入らないくらい集中していたんでしょう。とにかく親方の言うことを守ろうと。いい継承者になれそうですね。
髙見 はい。これからも頑張ってくれたらと思っています。
── 前回も話に出たけれど、カーデザインでも、刀づくりでも、10年くらい厳しい下積みがありますよね。よっぽど好きじゃないと、好き過ぎるくらい好きでないと耐えられないのではと思いますが。
前田 好きなことを仕事にしたつもりでも、現実には嫌なことがたくさんある。それを含めて生半可じゃない覚悟を持たないと続けられないでしょう。
髙見 一緒に修業した弟子仲間の中には、天才的なやつもいましたけれど、刀匠にはなれなかった。やっぱり、心底好きじゃないから続けられなかったんでしょうね。あと、器用なやつはあまり残っていないですね。上手で仕事できるやつは遊びも上手だから、ついそっちに目が向いて、仕事が疎かになってしまうのかも。下手くそだけど「これしかない」ってしがみついてやっているやつの方が、ものになっていることが多い。僕もその口ですけれど(笑)。
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