マツダの革新をデザインで引っ張ってきた同社常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏。伝統と革新、合理性と無駄…。デザインとは、時として相反する命題に向かい合い、1つの「形」にまとめ上げる宿命を持つ。前田氏だけが語り得るデザイン論。テーマは「相克」。

 デザインテーマ「魂動(こどう)」を打ち出し、広島の自動車メーカー、マツダの改革をデザインで牽引してきた人物、前田育男と、その中学・高校時代の同級生、仲森智博(日経BP総研フェロー)が、気鋭の刀匠、髙見國一の仕事場を訪ね、語り合う鼎談、第2弾。

 話は、技の継承から手仕事の意味といった「ものづくり」の根幹へと向かい、ついにはコラボレーションの提案まで飛び出しながら、鍛練され、深い輝きを放っていきます。話題の連載、第5幕、はじまり、はじまり!

── 先ほどの鍛錬、まだあの迫力の余韻が残っているんですけれど、向鎚(師匠の指示に従って鉄をたたく助手役)は、お弟子さんですか?

(写真/栗原克己)
(写真/栗原克己)

髙見 ええ、そうです。弟子入りしてまだ半年ですが、実は今日初めて「向鎚」を振るったんですよ。

前田 おお、それはすごいタイミング!

── 前田やカメラマンの栗原さんがすぐそばまで近寄っていたけど、ちっとも動じていませんでしたね。初めてなのに、よく集中できるなあ(笑)。

前田 初仕事の邪魔をしてしまったようで。

(写真/栗原克己)
(写真/栗原克己)
髙見國一氏
1992年、高校卒業後、刀工・河内國平(無鑑査、奈良県無形文化財保持者)に入門。師に日本刀製作を学ぶ。その傍ら柳村仙寿氏(無鑑査、岡山県指定重要無形文化財保持者)に刀樋やタガネの基本を学び、「日刀保たたら」村下養成員としてたたら操業に従事するなど研鑽を積む。98年に文化庁より「美術刀剣類製作承認(日本刀を製作する許可)」を受け、1999年独立。高見國一鍛刀場を設立する。2002年の優秀賞受賞以来、新作名刀展に毎年入賞。2010年の日本美術刀剣保存協会会長賞、2015年の寒山賞、2018年の高松宮記念賞(現代刀職展)をはじめ、特賞、最高賞を数多く受賞

弟子(小田道哉氏) いえ、大丈夫です(笑)。

前田 そうだとしたら、邪魔が目に入らないくらい集中していたんでしょう。とにかく親方の言うことを守ろうと。いい継承者になれそうですね。

髙見 はい。これからも頑張ってくれたらと思っています。

── 前回も話に出たけれど、カーデザインでも、刀づくりでも、10年くらい厳しい下積みがありますよね。よっぽど好きじゃないと、好き過ぎるくらい好きでないと耐えられないのではと思いますが。

前田 好きなことを仕事にしたつもりでも、現実には嫌なことがたくさんある。それを含めて生半可じゃない覚悟を持たないと続けられないでしょう。

髙見 一緒に修業した弟子仲間の中には、天才的なやつもいましたけれど、刀匠にはなれなかった。やっぱり、心底好きじゃないから続けられなかったんでしょうね。あと、器用なやつはあまり残っていないですね。上手で仕事できるやつは遊びも上手だから、ついそっちに目が向いて、仕事が疎かになってしまうのかも。下手くそだけど「これしかない」ってしがみついてやっているやつの方が、ものになっていることが多い。僕もその口ですけれど(笑)。

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