マツダの革新をデザインで引っ張ってきた同社常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏。伝統と革新、合理性と無駄…。デザインとは、時として相反する命題に向かい合い、1つの「形」にまとめ上げる宿命を持つ。前田氏だけが語り得るデザイン論。テーマは「相克」。
「好きな車」から「エンブレム」まで、いくつもの話題で盛り上がった前回に続き、マツダのヒストリックカーの話から始まった今回の対談。「合理と無駄」「技術とフォルム」といったテーマで、大胆かつ緻密に紡がれていきます。
デザインテーマ「魂動(こどう)」を打ち出し、広島の自動車メーカー、マツダの改革をデザインで牽引してきた人物、前田育男。その中学・高校時代の同級生、仲森智博(日経BP総研フェロー)が聞くホンネの話。第3幕、開演!
さっき、マツダミュージアム(注1)を見学してきたんよ。ええなぁ、昔の車。1970年代より前のやつはどれもカッコいい。朝川とか栗原さん(カメラマン)とか服部くん(ライター)とか、もちろん病的カーマニアの三好(「ものづくり未来図」編集長)を含めてみんなで見たんだけど、誰もが「昔のやつがいい」って言う。そのなかで、あえて1台を選ぶとどれって話になったんだけど、これが驚きで、全員一致だったんだ。
前田 R360クーペじゃない?
うわぁ、その通り!よく分かったね。コスモスポーツ(注2)なんかの方が名車として知名度が高いんで、それを言う人もいるかなと思ったんだけど、全員がR360クーペなんだよね。
前田 可愛いよね。今のマツダは「車は家族であり仲間である」というテーマで車をデザインしているけれど、R360クーペって「友達」とか「子供」のイメージ。単なる「移動の手段」とは言えないような、あの車にしかない個性やぬくもりがある。
そう。手に入れたら、簡単に廃車になんかできん。どうしてもダメになったら、墓とか作るわ(笑)。
前田 まさに、そこ。人の手で練り込んで作ったデザインの車というのは、思い入れも簡単には失せない。命あるものとして、愛着が湧いてくるんだね。
わしらが若い頃に心を躍らせた車が持っていた、そういった「言葉にしがたい」魅力が、いつしか、ほとんどの車から消えてしまったように思う。個人的には、80年代に入るあたりが境じゃないかと思うんだけど。
前田 そうかも。車業界では、70年代の終わりから80年代にかけて、マーケティングを重視した「マスに向けたものづくり」が本格的に始まった。その時期は、オイルショックの影響もあって、車の社会的責任が飛躍的に重くなって、公害や安全への対策などのレギュレーションが世界的に厳しくなったという、車にとっての一つの節目の時期でもある。こうした結果として、デザイナーが「作品」としてのものづくりをすることができなくなっていったような気がするんだ。
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