岩手県南部のブランド牛「いわて南牛」を中心に、独自の熟成法でうまみを増した「門崎(かんざき)熟成肉」を看板メニューに持つ門崎の焼肉店「格之進」。焼き肉だけではなく、カキやウニとのコラボ料理や、フランス発祥の加工食品までメニューを広げる一方、千葉祐士(ますお)代表取締役は「肉のテーマパーク」という新たな事業構想を進めている。

 地元・岩手県一関で展開していた焼肉店「格之進」は2007年、東京・練馬に「格之進TOKYO」をオープンして東京に進出。現在は16店舗になっている。創業当時3200万円だった売り上げも、直近の18年9月期では9億円、およそ28倍に成長した。さらに20年9月期には30億円に伸ばす計画だ。

門崎代表取締役の千葉祐士氏。帽子の小豆色は牛肉の色を表している
門崎代表取締役の千葉祐士氏。帽子の小豆色は牛肉の色を表している

 18年9月期から2年間で約3倍に売り上げを拡大する強気の裏には、千葉氏が掲げる世界観とマーケティング戦略がうまく回り始めたという自信がある。

肉の表情を引き出したい

 千葉氏は、肉には表情があると言う。同じ生産者の同じ品種の牛肉でも、一つひとつの枝肉(頭部や骨、内臓などを取った後の肉)ごとに、最もおいしくなる調理法などは違うというのだ。その違い(表情)を見極めて、おいしさを最大限に引き出している。

 「空白のマーケット」を開拓する第1のブレークスルーは「おまかせ」コースの考案だったが(前編)、もう1つのブレークスルーは、牛肉の可能性をさらに引き上げる試みをしたこと。黒毛和牛のA5といえば、一般的には最高の牛肉である“証し”だが、千葉氏はA5であることは「おいしさの必要条件だが十分条件ではない」と考えた。そして牛肉を熟成することで、さらにうまみを引き出す勘所を習得した。これが2つ目のブレークスルーとなった。さらに、門崎熟成肉をおいしく食べられる「塊焼き」というブロック肉の焼き方を考案したり、枝肉をお客の前で切り分けていく解体ショーを実施したりするなど、消費者との新たな接点づくりにも努めた。

塊焼き。肉汁を閉じ込めるための焼き方だ(写真/門崎)
塊焼き。肉汁を閉じ込めるための焼き方だ(写真/門崎)

 また、「日本料理に醤油が欠かせないように、熟成肉に欠かせない調味料をつくる」というコンセプトで開発した牛醤(ぎゅうしょう)という牛肉の発酵調味料も、そうした流れから出てきた。これは国産農水産物の消費拡大に寄与する優れた産品として、農林水産省主催「フード・アクション・ニッポン アワード2018」を受賞している。

 いずれもユニークな試みだが、発想の原点は、牛肉にかかわるビジネスを「持続可能なものにしたい」という想いにある。

 千葉氏は経営者として消費者の動向を注視している。さらに、父親が牛の目利きをしていた関係で、生産者のこともよく分かっている。その目線で見ると、「消費者は牛肉生産の現場や、おいしさの理由が分かっていない」と思うし、生産者に対しては、「消費者の言いなりになりすぎている」と思う。互いの理解がないままでは誰もが幸せになれず、牛肉にかかわるビジネスが、持続可能な産業として存続しないと考えた。

 そして「自分は何ができるのか」と考えた結果、出てきた答えが、消費者と生産者との「真ん中に位置する飲食店が提言する」こと。消費者には牛がどうやって育ち、おいしくなるのかを知ってもらう一方、生産者には、生産している牛のことを正しく消費者に理解してもらえる努力をしてもらう。千葉氏が進めているユニークな取り組みは、こうした想いが土台にある。

 千葉氏は、消費者の多くは黒毛和牛と国産牛の違いも分かっていないと言う。「冷凍精液などの技術の進歩で、品質改良が可能になった。牛は形が変わるくらい変わり、格段においしくなった。でも今でも和牛の代表料理は、すき焼きやしゃぶしゃぶくらいであまり変わっていない」。

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