岩手県南部のブランド牛「いわて南牛」を中心に、独自の熟成法でうまみを増した「門崎(かんざき)熟成肉」を看板メニューに持つレストラン「格之進」。代表取締役の千葉祐士氏は、一代で年間9億円を稼ぎ出すまで格之進を育て上げた。そのブレークスルーにつながるヒントは、ユニクロと牛肉の塊にあった。

千葉祐士(ちば ますお)氏
門崎代表取締役
1971年生まれ。岩手県一関市の、牛の目利きをなりわいとする家に生まれる。94年、東北学院大学経済学部卒業後、東京のフィルムメーカーに就職。その後、「一関と東京を食でつなぐ」ことをビジョンに掲げ、99年4月岩手県一関市に27歳で「焼肉店 五代格之進」を創業。2008年10月に門崎を設立し、代表取締役に就任。和牛の魅力を表現するため「門崎熟成肉」やカキとのコラボ料理を開発。「肉おじさん」として、牛肉の魅力を引き出すことに情熱を注ぐ

 肉おじさん――。「門崎(かんざき)熟成肉」というブランド牛肉を提供する高級焼肉店「格之進」を展開する門崎代表取締役の千葉祐士氏は、そんな親しみやすい名前を自称するが、まぎれもなく牛肉に関するプロである。

 千葉氏と親交があるPRコンサルタント、Kiss and Cry(東京・中央)代表の落合絵美氏には、そのプロ魂に触れた、忘れられない光景がある。

 2015年のゴールデンウィークに開催された食の大型イベント「大牛肉博」で落合氏は、格之進ブースでアルバイト管理や販売などを支援していた。当日は「肉フェス」という別の大型イベントも開催され、格之進は複数会場で門崎熟成肉を提供。いずれでも人気を博し、場所によっては3時間待ちの行列ができていた。

 千葉氏も現場に来て、肉が品切れていないか、携帯電話でひんぱんに確認。不足しそうだと分かれば急いで確保を指示していた。さらにその合間にもアルバイトに挨拶の仕方や盛り付けのコツなどを厳しく指導して回っていた。「千葉さんの世界観に基づく厳しい指導で、お肉を早く、おいしく届けることに懸命だった。声をかけるのも怖いほどのプロ魂を感じた」と落合氏は振り返る。

 肉フェスはこの分野では最大級の人気イベントで格之進はその常連。そして14~16年の同イベントの年間販売額で連続1位を獲得するなど、その人気は群を抜く(ネット販売含む)。実際、現在16店舗を展開し、18年9月期は9億円を売り上げている。では千葉氏はどのようにして格之進をこれほどの人気店に育てたのか。

2014年1月にオープンした東京・六本木の「肉屋 格之進F」。熟成肉の骨付き肉がウリ。精肉も販売している(写真/門崎)
2014年1月にオープンした東京・六本木の「肉屋 格之進F」。熟成肉の骨付き肉がウリ。精肉も販売している(写真/門崎)

ユニクロ見て「空白のマーケット」に気がつく

 格之進の原点は「牛の1頭買い」にあった。

 代名詞である門崎熟成肉とは、肉牛の肥育が盛んな岩手県南部のブランド牛「いわて南牛」を中心とした県産黒毛和牛の枝肉(頭部や骨、内臓などを取った後の肉)を、独自の方法で熟成させたものだ。門崎は、その加工から流通、販売までを一貫して管理している。千葉氏が2000年初頭に独自の熟成法を編み出し、ブランドとして確立した。その熟成肉を供するのが格之進である。

 父は牛の目利き、兄は牧場経営者で、自身は東京のフィルムメーカーに就職しながらも、子どものころから身近な存在だった牛(牛肉に関連する産業)を盛り立てたいという思いが常にあった。そこで1999年、千葉氏27歳のときに会社を辞め、地元・一関で焼肉店を始めた。

 当初は肉の切り方も知らなかったが、勝算はあったという。「直接消費者を相手にするダイレクトマーケティングの時代が来る」。メーカー時代に営業マンとして消費者と直接取引する仕事を担当した経験から、代理店を通さないSPA(製造小売り)ビジネスに、大きな可能性を感じていたのだ。

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