僅か5年前。メガネスーパーは倒産寸前の境目をさまよっていた。そこに舞い降りた再生請負人が、星崎尚彦社長。就任後、3年足らずで8年連続赤字の最悪期を脱し、黒字転換を果たした。なぜ瀕死の会社はよみがえったのか。決してマジックではない、星崎氏が心血を注いだ現場改革の凄みを追った。

メガネスーパー社長
「今、不動産会社に賃貸契約の解除予告をしてきたから」
メガネスーパーの社長就任からおよそ1年後、2014年6月に星崎尚彦氏は“禁じ手”を繰り出した。突然の解除予告をしたのは、大型のフラッグシップ店を含む不採算の40店舗余り。残された猶予期間は12月末までのたった半年、次の出店場所を見つけなければ本当に店はなくなる。想定外の社長の決断に、店舗開発スタッフや対象とされた店長たちは慌てふためき、同時に思った。
「今度の社長は、本気だ……」
これが、「危機感ゼロ」だったメガネスーパーの社員に火を付け、後の劇的なV字回復につながるブレークスルーの一幕だった。
同社は、ピークとなった07年に店舗数が500店超、売上高も400億円近くを記録した。しかし、その後、レンズとフレームのセットで1万円以下という圧倒的な安値で攻勢をかけたJINS(ジンズ)やZoff(ゾフ)に押され、一気に劣勢に立たされた。投資ファンドのアドバンテッジパートナーズの下で経営改革が進められていた13年、“最後の再生請負人”として招請されたのが星崎氏だ。当時メガネスーパーは毎月2億円の赤字を垂れ流し続け、「翌年の決算で債務超過を脱しなければ上場廃止」(星崎氏)という瀕死の状態。そんなひどく短い時間軸の中での緊急登板だった。
それまで宝飾業のフラー・ジャコージャパンや、アパレルのクレッジなど、いくつもの企業の立て直しを手掛けてきた星崎氏。メガネスーパーでまず取り組んだのは、日々の出血を止めることだ。至極当然のことのように聞こえるが、これが実に難しい。というのも、星崎氏がメガネスーパーに乗り込んだ当時、約9割の店舗が赤字だったにもかかわらず、社員の危機感はゼロ。「上に言われたことはちゃんとやっている」「まだ投資ファンドがいるから大丈夫」という“甘え”があった。家賃を月770万円も払っているのに月500万円の赤字。こんなアベコベな状態の店舗が放置され、星崎氏が移転を指示しても一向に次の出店先は決まらない。冒頭に紹介した突然の賃貸契約の解除予告は、そんな社内のゆるい雰囲気に業を煮やした星崎氏が実行した“劇薬”の1つにすぎない。星崎氏は、「メガネスーパーの憲法第一条は利益」と目的をシンプルに定め、そのための施策は、たとえ現状を否定するものでも「すべて是」であり、「赤字ある限り聖域なし」とした。
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