2018年に起きた企業が関係するネット炎上には特徴がある。一つは、不正・パワハラの告発が目立ったことだ。これはスポーツ界のパワハラ騒動や世界的な「#MeToo」運動など、世間の関心事を反映している。サントリーと東レの子会社で起きた事例から、告発にまで至ってしまう要因と対策について考察する。

2018年も残り3カ月を切った。今年のテレビのワイドショーはひところの不倫ネタばかりの状態が一段落して、2つのテーマがよく取り上げられた。一つは、女子レスリング、日大アメフト部、日本ボクシング連盟、日本体操協会などスポーツ組織を舞台とするパワーハラスメントの話題。もう一つは、主にセクハラや性的被害を告発する「#MeToo」運動。テレビ朝日の女性記者が財務事務次官のセクハラ発言の録音音声を「週刊新潮」に提供しスクープされたことで、事務次官が辞任に至った。海外でも有名女優が大物プロデューサーの過去のセクハラ行為を告発する動きが広がった。
国内スポーツ界のパワハラと世界的な#MeTooムーブメントは別のトピックではあるが、弱い立場にある選手やタレントが、協会幹部や監督、著名プロデューサーといった権威に反旗を翻し、世論がそれを支持するという構図は共通している。ある種の下克上が吹き荒れた年と言えるだろう。
炎上は世につれ──。十年一日のごとく繰り返されているネット上の炎上劇にも、世相を敏感に反映したトレンドというものがある。世間の関心がパワハラに向いているときは、パワハラ告発型の炎上が起こりやすく、注目を集めやすい。電通の過労自殺事件に端を発した「働き方改革」の流れのなかで、「ブラック企業」と称されるような労働環境は、以前にも増して悪目立ちする。ソーシャルリスニング&ソーシャルリスク対策ツール「BuzzFinder」を提供するNTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション(東京・品川)データ&アナリティクス部担当部長の中村匡史氏も、最近の炎上リスクトレンドとして「内部告発とハラスメント」を挙げる。
正解しないと休めない「有給チャンス」クイズ
「サントリーグループの自販機大手ジャパンビバレッジの支店長が従業員に送ったヤバすぎるメールを入手」──。
8月17日、個人加盟の労働組合「ブラック企業ユニオン」のTwitterアカウントが、上司が部下に送ったとされるパワハラメール画面を公開した。問題があったのは、サントリー食品インターナショナルの子会社、ジャパンビバレッジホールディングス傘下のジャパンビバレッジ東京。
クイズに正解しなければ年次有給休暇(有休)を取得させないというもので、都内15の駅名を挙げて売り上げの多い順に並び変える出題。「全問正解で有給チャンス 不正回答は永久追放」と記されていた。結果は、新宿駅が2つあるという出題ミスもあって、全員不正解。有休を取れた者はいなかったという。
同社は今春、残業代未払い問題をめぐって従業員が残業を拒否する順法闘争に出て、東京駅構内の自販機で売り切れが続出したことでも話題になっていた。こちらはネット上の話題にとどまっていたが、有給チャンスクイズはネーミングのナンセンスぶりもあって、関心事がパワハラに移っていたワイドショーの格好のネタになり、広範な視聴者に知られるところとなった。告発から5日後に同社は謝罪している。
「ネットに書かれたので公表」、経団連会長企業の判断
もう一件、こちらは17年11月の出来事だが、匿名掲示板に以下の投稿があった。
「東レのタイヤコード、産業用コードを生産するグループ会社にて、顧客に提出する検査データを改ざんしていた。顧客と取り決めていた規格値に対して、実際には規格を満たしていないにも関わらず検査データを改ざんし、企画を満たしているかのように偽り、顧客へ納入していた。不正は10年前から行われており、品質保証部門の管理職が主導して改ざんに関わり組織的に不正を行っていた。リコールとなった場合の業績への影響は不明。」──。
16年に日産とスバル、17年に神戸製鋼、三菱マテリアルと検査データの改ざん問題が相次ぎ、そこに東レ(東レハイブリッドコード)も続いた。同種の問題や事件が続々と明るみになる場合、通常は最初に発覚した企業が最もバッシングを受けて、2番目以降は徐々に軽くなりやすい。だが東レは後発ながら、「ネットに書かれたので公表した」「(1年以上前に把握していたが安全上の問題はないので)公表するつもりはなかった」というある意味正直過ぎる社長の会見発言が注目を集めることになった。書き込みを見た投資家からIR部門に問い合わせが入ったこと、そして「週刊文春」の記者から社長が直撃取材を受けたことが公表に転じる要因になったようだ。
この2つの事例から言えることが3点ある。
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不正やパワハラなどの証拠は従業員が握っている
あらゆる情報がオンライン上でデジタルデータを通じてやりとりされる時代、社内の不都合な情報も転送・公開しやすいデジタルデータの形で残る。 -
上司はパワハラと受け止められる発言に注意が必要
「有給チャンスクイズ」ほど悪質でなくとも、「査定に響く」といったプレッシャーをかける言葉は後々問題化する可能性がある。 -
「ネットに書かれたから公表」という新基準で告発が増える可能性
当時、経団連会長だった榊原定征氏(東レ相談役)の出身企業で起きたことだけに、ネット告発が事実であれば公表という基準は他企業も意識せざるを得ない。それがさらなるネット告発を誘発する可能性がある。
もちろん不正やパワハラをなくすことが一番だ。一方で、同種の問題が告発にまで至る企業と、その前に自浄作用が働く企業とがある。対策としては例えば従業員満足度調査を実施して満足度が低い部署を抽出し、どんな問題が起きているのか把握、改善に乗り出すことで、放置すれば告発に至りかねない案件を食い止められる可能性はある。炎上対策というととかく炎上監視・検知ソリューションの話に終始しがちだが、それ以前にまず社内の風通しといった基本的な仕事環境に目を配る必要がありそうだ。
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今後の記事予定
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(10月12日公開予定)
「2018年に起きた主なネット炎上トラブル」一覧にあるレオパレス21の説明を修正しています。 [2019/04/22 19:00]