9月17~21日にコペンハーゲンで開催されている「ITS世界会議2018」。次世代交通に向けた産官学の国際会議で、今年は移動サービス革命「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」に関する注目の発表が目白押しだ。展示会レポートと共に、キープレーヤーの単独インタビューをお届けする特集の1回目。「地方におけるMaaS」と題するセッションに東京急行電鉄が参加し、MaaS参入の方針を初めて表明した。2019年春に、国内初となる地方観光に焦点を当てたMaaSの実証実験を始めるという。

東京急行電鉄は19年春に、静岡県の伊豆半島を舞台に「観光型MaaS」の実証実験を始める。コペンハーゲンで開催されているITS世界会議2018のセッションにMaaS事業を推進する事業開発室プロジェクト推進部の森田創課長が登壇し、表明した。地方の観光に焦点を当てた本格的なMaaSの取り組みとしては国内初となる。
19年春に行う実証実験には、伊東駅から伊豆急下田駅間の45.7㎞を結ぶグループの鉄道会社、伊豆急行が参加する他、バス、タクシー、シェアサイクル(あるいはレンタサイクル)の事業者が加わる予定。数カ所の拠点駅の周辺エリアを対象に、これら複数の交通手段を組み合わせた最適なルート検索、予約がスマートフォンのアプリで可能になる。東急グループを含めてエリア内のホテルや旅館を同じアプリ経由で予約できるようにする他、東急ストアやグループ外の観光施設、小売店などとの連携を視野に入れている。また、「MaaSフリーパス」といった一括払いの仕組みを含めて、アプリでの事前決済を可能にすることも検討中という。
展開エリアの有力候補と目されるのは、例えば終着駅となる伊豆急下田駅の周辺だ。同駅から先には美しい海岸線や浜辺が広がるが、鉄道駅からの2次交通が不便で、これまで観光客はマイカーやレンタカーに頼るしかなかった。東急MaaSの導入によってバスやタクシー、シェアサイクルといった足回りの交通サービスをシームレスにつなげれば、現地での移動の利便性が格段に向上する。東急にとってはグループの鉄道やホテルなどの利用客アップを狙え、併せて観光客増による地域経済の活性化にも貢献できるというわけだ。
また今回、東急があえて地方でMaaSの実証実験を行う背景には、急速に進む高齢化という深刻な問題もある。タクシーやバスといった公共交通は慢性的なドライバー不足に悩んでおり、台数や路線維持すらおぼつかない。そこにMaaSの仕組みを取り入れると、例えば移動需要のピークに合わせて広域でモビリティを融通し合うなど、最適な配車で事業を効率化しつつ利便性を上げたり、そもそも観光需要が増加することで売り上げがアップしたりと、多くのメリットが見込める。
一方、マイカーでの移動に不安を覚える地元の高齢者にとっては、便利なモビリティの選択肢が増えることで、外出の機会を減らさずに済む。観光客の移動需要の多くは午後に集中するので、午前は地域住民を優先して運用するモビリティを用意するなど、「観光客をメインに据えながらも、地域貢献との両立は可能」(森田氏)とみる。続いて森田氏は、「これまで鉄道会社としてまちづくりを推進してきた。高齢化などの社会変化で街の前提が変わりつつある今、次の100年に向けて最適なモビリティを再構築するのが我々の使命」と話す。
さらに東急は、伊豆での実証実験に加え、東京・神奈川にまたがる東急沿線でのMaaSプロジェクトの実施も検討しているもようだ。こうした鉄道会社のMaaSへの取り組みをめぐっては、18年4月に小田急電鉄が20年度までの新たな中期経営計画でMaaS推進の方針を示し、9月には神奈川・江の島で鉄道駅からのラストマイルの要となる自動運転バスの実証実験を公道で行った。また、JR東日本も7月に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」の中で、移動のための情報、購入、決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」によって、シームレスな移動などの実現を目指す構想を明らかにしている。今回の東急を加えた3社の積極的なトライアルに触発され、今後も国内の鉄道各社でMaaS実現に向けた取り組みが増えそうだ。