2000年以降、中国のインターネットユーザーは激増し、18年には8.29億人に達した。中国の人口の6割に当たる。だが近年、インターネットユーザーの伸びは頭打ち。人口ボーナスならぬ「互聯網紅利(インターネットボーナス)」が消失するなか、新たな市場として注目されるのが「下沈市場」だ。
1990年代、米国ではアマゾン・ドット・コムやイーベイといったネット企業が続々と誕生し、“ドットコムバブル”を巻き起こした。インターネット関連の企業群が異常なほどの好調ぶりを見せたのと時を同じくして、中国でもアリババやテンセントといった大手IT企業が2000年前後に創業、中国国内でのITバブルの先駆けとなった。
ドットコムバブルは00年に崩壊し、中国の大手IT企業へも影響を及ぼした。ただ、中国のインターネット市場はその後も順調に成長し、今では世界最大級のインターネット産業を築き上げた。だが、その中国でさえ、インターネットユーザー数の伸びは鈍化し、やや陰りが見え始めている。人口ボーナスならぬ、インターネットユーザーの増加による「互聯網紅利(インターネットボーナス)」が消失し、中国インターネット産業は後半戦に突入し始めた。その中で注目される新たな市場が「下沈市場(シャアチェンシーチャン)」だ。
下沈市場とは、いわゆる中国の都市の格付けで、「サードティア(三線城市)」と呼ばれる地方都市群にいるユーザーの市場だ。この対義語として、「非下沈市場」という単語が存在するが、これはいわゆる「ファーストティア(一線城市)」である北京市、上海市、広州市、深セン市や、「セカンドティア(二線城市)」であるアモイ市、大連市、ハルビン市などの市場がそれに当たる。
都市部のインターネットユーザー数の伸びは頭打ちになるものの、人口大国である中国では未開拓の市場が地方都市に眠っており、大手IT企業にとってはまたとないチャンスとなる。実際、ショートビデオとECの分野においては、いち早くこの「下沈市場」に進出する事例が見えている。
ショートビデオ大手が下沈市場で激突
ショートビデオの分野においては、以前紹介した快手(クァイショウ)と、「TikTok」で知られる抖音(ドウイン)が地方ユーザーの争奪戦を激しく繰り広げている。
クァイショウは、もともと地方ユーザーをメインに開拓してきており、多くのUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)は「土味文化」と呼ばれるちょっとダサいコンテンツがメインである。一方、ライバルであるドウインは主に、都市部の若者ユーザー向けにサービスを展開していた。
ところが、インターネットユーザーの伸びに陰りが見え始めると、ドウインが地方ユーザーの開拓に乗り出し、クァイショウで活躍していた多くのKOL(Key Opinion Leader)をドウインのプラットフォームへと誘致した。KOLとは強い影響力と専門性を併せ持ったインフルエンサーのことだ。
中国のデータサービス会社QuestMobileの「下沈市場報告」によれば、KOLの獲得によりドウインの地方ユーザーは130%増加したという。また、同社が19年3月に実施したリサーチによると、ドウインの地方ユーザーの月間アクティブユーザー数(MAU)は2.5億人に達し、2位のクァイショウの2.1億人を抑え、首位に立っている。
これら下沈市場に点在するユーザーは「下沈用戸」と呼ばれるが、前述の「下沈市場報告」では4つの特徴を挙げている。
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