2019年9月、中国全土を沸かした“三日天下”のSNSが2つある。米ナスダック上場企業、陌陌(モモ)が提供する「ZAO」と、中国SNS最大手「微博(ウェイボ)」を展開する新浪(シナ)がリリースした「緑洲(リュウジョウ)」だ。リリースと同時に消費者の注目を浴びたが、すぐにサービス停止に追い込まれた。
ZAOとは、匿名マッチングアプリを提供している陌陌が開発した顔交換アプリだ。ユーザーはアプリを通して、映画やテレビ番組などのシーンに登場する俳優や女優と自分の顔を差し替えることができる。さらに、そのビデオを微信(ウェイシン)や微博などといったSNSに投稿して楽しめる。
ディープフェイクと呼ばれる、人工知能を用いた動画合成技術を基に開発されたZAOは、瞬く間に中国のアップルストアで無料アプリランキング1位に躍り出た。動画合成の質は驚くほど高く、海外のユーザーからもコメントが殺到し、ツイッターなどにもZAOを利用した動画がアップロードされている。陌陌はZAO以外にも、中国版Tinder(ティンダー、米マッチングアプリの一つ)といわれる「探探(タンタン)」を運営しており、ZAOを含めて12のSNS関連サービスを開発・運営している。
しかし、ZAOがリリースされたわずか3日後、Bloombergをはじめ、国内外のメディアはユーザーがZAOを利用する際に同意するプライバシーポリシーの中に、“当アプリによって制作された画像や動画の権利は全て開発元に帰属する”という肖像権侵害の問題を指摘。次の日にはZAOの関係者が中国工業情報化部に呼び出され、事情聴取を受けた。さらに9月中に国家インターネット情弁公報室から改善命令を受けた。現在(2019年9月24日付)、ZAOのプライバシーポリシーはすでに改訂され、再度リリースされている。
そのZAOと同じく、9月に三日天下を享受していたのが、新浪が提供する緑洲だった。緑洲は写真投稿型SNSとして、“ZAO事件”とほぼ同時期に静かにリリースされた。9月2日に、新浪CEOの王高飛(ワン・ガオフェイ)氏による投稿に、「緑洲Appから」という表記が付いていたことがきっかけで、アプリのダウンロードが激増。まだベータ版で、アプリを登録するには招待コードが必要だったが、ユーザー側はあらゆる方法を用いて入手しようとし、9月3日の時点ですでに中国App Store(アップストア)の無料アプリランキングで1位に上がりつめた。
筆者も、リリースの時点で招待コードを入手し、緑洲を使ってみたが、ちまたの評価と同じく、まさに中国版Instagramだ。写真の投稿や「いいね」、コメント機能など、Instagramに非常によく似ていた。ただし、この中国版Instagramには以前紹介した「小紅書(シャオホンシュ)」のようなEC機能が搭載されており、今後どのような進化を遂げていくのかが興味深い。
この緑洲も今こそサービスの再開に踏み切っているが、アプリをリリースしてからわずか3日でApp Storeから一時撤退していた。アプリリリースから数日日後の9月4日、微博のユーザーが「緑洲が現在使用しているロゴは、韓国のデザイン事務所のものと酷似している。デザインの盗用ではないか」と指摘。その投稿が微博で多数リツイートされた。緑洲側はすぐに内部調査と著作権に関する問題について対処すると述べ、同時に緑洲もApp Storeからその姿を消した。
ZAOと緑洲といった新たなSNSの登場は世間を沸かし、特に「90後」(ジウリンホウ、1990年代に生まれた世代)や「00後」(リンリンホウ、2000年代に生まれた世代)など、若いSNSヘビーユーザーをとりこにした。実際、今年に入り中国では新たなSNSが次々と生まれている。特に増え続けているのが「SNS×EC」と、陌生人社交(直訳すると見知らぬ人とのSNS)と呼ばれる「匿名SNS×マッチングサービス」の分野だ。
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