世界5大エグゼクティブ・サーチ会社の1つ、ハイドリック・アンド・ストラグルズの日本法人パートナーである渡辺紀子氏は、東京大学時代に中国文学を専攻していたこともあり、仕事やプライベートで、今も定期的に中国を訪れる。昨年11月に中国・上海を訪問したとき、かの地の友人たちとの会話や実際に街を歩いて感じたことを話してもらった。

 エグゼクティブ・サーチという仕事柄、中国でも、経営者の動向をよく見聞きするようにしている。最近の変化の1つは、中国人経営者の打ち込む趣味、というより習い事の中身が変わってきたことだ。2つの傾向が見て取れる。

 1つは、“貴族趣味”の流行だ。もともと中国で経営者になるような人物は他人と同じことをやりたがらない傾向が強く、ピアノや社交ダンスなどは「普通過ぎる」という理由で習い事としては忌避され、トロンボーンや古弦楽器などが好まれていた。最近ではこの傾向がさらに進み、フェンシングや乗馬などが好まれるようになってきた。お金のかかるスノッブな趣味を持つことが、成功した経営者としてのプライドを満たすようだ。

 また、経営者の子弟教育も、よりお金をかけた本格的なものになっている。私の東京大学時代の学友で、現在、京都大学で中国哲学を教えている友人は、中国の経営者の求めに応じて、経営者とその子弟に中国哲学を教えるため、中国を何度も訪問している。中国にも先生はいるだろうに、なぜ日本からわざわざ中国哲学の教師を招いて学ぶのかというと、中国では文化大革命の影響で研究が途切れてしまった時期があり、そこを埋めるために日本の先生を招くのだという。経営だけでなく、子弟教育にも完璧を期すことで、経営者としてのプライドが満たされるというわけだろう。

 もう1つの傾向は、経営者として多忙なのにもかかわらず、時間のかかる趣味を持つことだ。例えば、山登り。山頂まで登り切ることは目標の達成になり、その意味では経営と通じる面がある。それだけではない。「DIY(Do It Yourself)」もブームになっている。日本でいうホームセンターで材料を買ってきて、自宅で家具を組み立てるというものはもちろん、自宅で子どもと一緒に料理をするという経営者が増えている。

アリババグループが運営するBtoC向けECサイト「天猫超市(Tモール)」で売られている、森永製菓の商品「ケーキミックス」の1つ、「ホットケーキミックス」
アリババグループが運営するBtoC向けECサイト「天猫超市(Tモール)」で売られている、森永製菓の商品「ケーキミックス」の1つ、「ホットケーキミックス」

 森永製菓の人気商品「ケーキミックス」が今、中国向けの越境ECで大変な売れ行きだが、これは自宅で子どもと一緒にできる料理をしようとする中国人が増えているからだと思う。かつての日本でもそうだったが中国でも、経営者がすることを経営幹部などはよく見ていて、まねをするからだ。

 なぜ子どもと一緒に料理を作るのが流行っているかというと、経営者、つまり中国の富裕層のそもそもの子育ての仕方が変わってきているからだ。これまでは、お手伝いさんを雇って子育てを任せる家庭が多かったが、最近では自分で子育てをするように“回帰”している。実際、ユニ・チャームとボストンコンサルティンググループのVC(ベンチャーキャピタル)組織の共同出資会社が中国で展開する、育児動画メディア「Babily(ベイビリー)」は、中国で1000万を超えるユーザーを集めて人気急上昇中だ。粉ミルクの作り方などを1分の動画で見せるメディアだが、自分で子育てをする家庭が増えてきたからこそ、人気が高まっていると言える。

 昔の日本の経営者の趣味といえばゴルフ一辺倒で、しかも仕事の一環として取り組むという意味合いが強かった。それに比べれば、今の中国の経営者は、仕事とプライベートを切り分け、仕事もプライベートも充実させようとしているように見える。

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