さまざまな交通手段を統合して次世代の移動サービスを生み出す「MaaS」実現の先にある未来を、さまざまな産業の専門家と探る本連載。今回のテーマは医療・防災。長年にわたって災害時の救護活動に取り組んできた熊本赤十字病院と、車両提供を通じてその活動をサポートしているトヨタ自動車九州に、災害救護におけるモビリティの役割や現在の取り組みについて聞いた。

医療・防災×MaaS、モビリティ分野で先進的な取り組みを行っている熊本赤十字病院
医療・防災×MaaS、モビリティ分野で先進的な取り組みを行っている熊本赤十字病院

 大地震や台風、大雨など、災害が起こったときに真っ先に必要になるものの1つが、医療だ。災害でけがを負った人の治療や、持病がある人の診療、妊婦の対応など、災害時は平時以上に医療が必要とされ、早急に医療体制を確保しなければ人の命に直結する事態になってしまう。そんなとき、災害現場に真っ先に医療チームを派遣する組織の1つが日本赤十字社だ。日本赤十字社法という法律により、災害時の被災者救援や助産、遺体への対応などの業務内容が規定されている。

 熊本赤十字病院も、そんな災害救護を手がけている。2000年には赤十字医療施設として初めて国際医療救援拠点病院として指定され、国内だけでなく、海外で起きた災害に対しても医療チームを派遣している。さらに災害救護技術の開発や救援要員の養成まで手がけており、まさに災害救護のトップランナーというべき存在だ。

 そんな熊本赤十字病院が、トヨタ自動車九州とともにモビリティ活用に取り組んでいるという。医療・防災分野でモビリティはどのような役割を果たせるのか。MaaSと組み合わせることで、どんな可能性があるのか。同病院の副院長兼国際医療救援部長の宮田昭氏と救援課長の曽篠恭裕氏、トヨタ自動車九州GarrawayFビジネスプロデューサーの植野直亮氏、山口大介氏に話を聞いた。MaaSの社会実装を推進するMaaS Tech Japan代表取締役の日高洋祐氏モデレートの下、進行した座談会を前後編でお届けする。

「本当の意味で人の命を守る」

MaaS Tech Japan 日高洋祐氏(以下、日高氏) 熊本赤十字病院は、これまで国内外の多くの災害に対して医療チームを派遣し、医療救援を行ってきました。今どのようなことに取り組んでいるのか教えてください。

熊本赤十字病院 曽篠恭裕氏(以下、曽篠氏) 私たちは、これまで国内だけではなく、海外も含めてさまざまな災害現場に外科医や麻酔科医を含む医療チームを派遣してきました。例えば2001年のインド西部地震では、こちらにいる宮田をリーダーとして大規模なチームを派遣しましたが、現地にたどり着くまでに非常に苦労しました。ビザの取得に2日かかり、インドに入国してから現地にたどり着くまでにさらに2日。インド政府の協力を得てようやく資機材と一緒に被災地の空港に到着したものの、数トンの物資を現地の人たちと人力で輸送機から降ろし、トラックで被災地に到着したのは夜中でした。現地は、夜は0度まで気温が下がり、昼間は40度にも達するような厳しい気候で、仕方なく私たちはその辺の木を切ってたき火を囲んで暖をとってしのぎました。このケースからも分かるように、災害救護では「人の動き」と「モノの動き」の両方を上手に組み合わせないと、医療救援を始めるどころか自分たち自身の生存も危うくなりかねません。

 そこで、災害時に「生命を守る」ために、私たちは「人のロジスティクス(人流)」「モノのロジスティクス(物流)」に取り組んでいるのです(下図参照)。この図だけを見ると、「何で医療機関が、物流やMaaSをやるのか」と疑問に思われるかもしれませんが、実際に救護活動を行っていく上では、人流と物流をうまくコントロールしないと救護活動がうまくいかないのです。

熊本赤十字病院が取り組む「人」と「モノ」のロジスティクスの方向性(資料提供/熊本赤十字病院)
熊本赤十字病院が取り組む「人」と「モノ」のロジスティクスの方向性(資料提供/熊本赤十字病院)
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