カーシェア、鉄道、バス、タクシーなど、さまざまな交通手段を統合して次世代の移動サービスを生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。MaaS実現の先にある未来を他産業の専門家と探る本連載の第7回。今回は、フードトラックと空きスペースのマッチングサービスで急成長するスタートアップ、Mellow(メロウ)が見据えるMaaSの未来を探る。

モビリティ革命「MaaS」がもたらす社会的インパクトは移動にまつわるものだけではない。あらゆるモビリティのモードを超えてシームレスな移動を提供するMaaSの実現に至る過程やその先には、他産業のビジネスモデルと連携しながら、まちづくりの在り方が大きく変わり、人々の暮らしがダイナミックに刷新されていく可能性を秘める。
今回は、空きスペースを有効活用したいオフィスビルなどのオーナーと、小型の飲食店に改装したフードトラックをマッチングするサービス「TLUNCH(トランチ)」を展開するMellow共同代表の森口拓也氏にMaaSの世界と融合する近未来を聞いた。TLUNCHは11月現在、東京を中心に118カ所の空きスペースを確保しており、そこに471店の提携フードトラックを配車。10月時点で、ランチ営業の売り上げは月間7400万円に上る。その先にどんな戦略を描いているのか(参考記事「ランチ難民を救う『フードトラック』、なぜ急成長しているのか」)。

鉄道やバス、タクシーに加え、カーシェアやライドシェアなどのあらゆる交通・移動手段を統合し、スマホアプリを介した一括予約・決済を可能にするサービス。クルマを所有するより割安に、かつ同等以上の移動の利便性を得られる。地方の交通弱者対策、渋滞解消などの社会課題の解決にも役立つ。
→ 個々人のニーズに合わせた移動手段をアレンジ、新たな移動需要の創出が可能に
②交通の最適化・サブスクリプション化
→ モビリティの移動を統合的に制御する仕組みの登場
→ 「乗り放題定額パッケージ」の出現で、交通以外のビジネスとのワンパッケージ化が容易に
③都市空間・立地の再定義
→ カーシェアやライドシェアの普及で駐車場が消滅、空きスペースの有効活用が可能に
→ 交通体系の再構築で、立地によらないビジネスが可能に
(以下、Mellowの森口拓也氏談)
我々Mellowはフードトラックなどのモビリティを用いて、「人の才能をニーズのある場所に最適配車すること」を目指しています。現在主力のフードトラックの展開でいえば、これまで飲食店は良い立地で出店しようとすると、家賃や設備コストなどで少なく見積もっても1000万~2000万円程度かかり、出店リスクの高いビジネスでした。そのリスクを背負って出店にこぎ着けても、近くに似たような飲食店ができれば、たちまち限られた“胃袋”の奪い合いになります。これに対してフードトラックなら出店コストは200万円程度で済み、TLUNCHに登録されている数千人が働くオフィスビルなどの空きスペースに店を構えることができる。土地を貸すオーナーにとっては空きスペースが新たな収益源になり、これまで独立をためらっていた料理人は自分の“城”で存分に腕を振るえるというわけです。
つまり、これまで土地(固定費)に縛られていたプロフェッショナルの才能をモビリティサービスで“解放”するということです。ランチを提供する飲食店だけにとどまらず、既に肩こりや体の張りをほぐす施術が受けられる移動型リラクゼーション店のテストも行っています。これからは移動型ネイルサロンやメーキャップ、ペットのトリミングサロン、靴磨きに加え、保険を含めたライフプラン、結婚、キャリア相談など、人の能力が介在する必要のある、あらゆるサービスをモビリティに置き換えていきたいと考えています。

現状、我々が配車するフードトラックの収益性は、コインパーキングの半分程度。しかし、11時30分~14時30分の3時間のランチ営業だけでこれですから、先述の切り口で朝や夕方、夜の時間帯に空きスペースを収益化するビジネスを確立すれば、すぐに追い越せます。また、これからMaaSの世界が発展していくと、マイカーの需要が減り、それに伴って既存のコインパーキングの収益性は落ちてくるでしょう。そこを補って、土地の有効活用を進めるソリューションを先行して手掛けていきます。
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