洗濯物をどうするか、傘を持っていくか、週末の外出はどんな天気になるのか――。私たちは日常的に、今日のこれからの天候や今後1週間の傾向を知るときに、いわゆる天気予報を役立てている。こうした天候の予測は、社会や産業でも役立つ。その1つが、ダムの事前放流の判断支援だ。日本気象協会は、ディープラーニングを活用して大洪水を防ぐための長期間で詳細な雨量予測を実現した。第2回 ディープラーニングビジネス活用アワードで特別賞を受賞した「JWA-AI予測」がそれだ。
毎年のように各地を襲う水害に対して、被害を最小限にするために様々な取り組みが行われている。その中でも、ダムは下流への放流量をコントロールすることで、被害を軽減することができる分野だ。
日本気象協会 関西支社 社会・防災事業課で課長を務める道広有理氏は、「河川の管理では大雨が降って危なくなったら逃げるしか手がないので、避難指示を出すことになります。一方でダムがあって事前に流域への降雨量が分かれば水量のコントロールが可能です。そのためには、15日先といった長期にわたり、細かいメッシュで雨量を予測できることが必要です」と語る。今後の雨の状況が分かれば、ダムの水をうまく制御できるのだ。日本気象協会は、スーパーコンピューターを使わずにディープラーニングを活用して雨量予測の精度を高めた「JWA-AI予測」で、ダムの事前放流に的確な情報を提供できる技術を開発し、実用化を進めている。
不足していた長期間にわたる精度の高い予測
まず、ダムの事前放流と雨量の予測の関係について、少し説明をしておきたい。河川の水源地流域に多くの雨が降ると、下流で洪水が起こるリスクが高くなる。そこにダムがあれば、上流の雨をためて下流の河川への放水量を調整することが可能だ。水害を防ぐためにダムの貯水能力を活用できる。ダムの「治水」の側面である。
一方で、ダムは水をためていることで価値を提供している。渇水時に上水道や用水などに安定して給水したり、発電に用いたりする。ダムの「利水」の側面では水を多くためておくことが求められる。
ここで事前放流の話につながる。ダムの上流に多量の雨が降ることが予測できれば、治水のためにダムから水を事前に放流して備えることができる。問題は、ここからだ。1つは、ダムの事前放流がすぐにはできないこと。前もって下流域の住民などに情報を告知するといった対応が必要で、1週間程度のリードタイムが求められる。もう1つは、放水量の最適化。降雨に備えて貯水量を減らしておけば洪水調節には役立つが、貯水量が少なすぎても利水容量が減って損失が大きくなる。
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