固体レーザーの一種「ファイバーレーザー」製造を新規事業の1つの柱に据えるフジクラ。同レーザーの発光源に使う高出力の半導体LD(レーザーダイオード)の製造時に、ディープラーニングを使った複数の検査装置を実用化した。そこで作ったAI(人工知能)基盤を、他の業務や海外へも展開する計画だ。

 「当社では、複数の事業ドメインでPoC(概念実証)を含めて多くのAI活用の取り組みが進んでいる。長期的な取り組みとしては、AI活用による製造プロセスの改善、あるいは『製造業の改善』につなげていきたい」

 フジクラの生産システム革新センター副センター長の黒澤公紀氏はこう言う。

開発ロードマップに「画像」「数値・記号」「制御」「言語・概念」

 ディープラーニングを活用したのは、2018年に運用を始めたLDウエハー外観検査と、19年のLDチップ一括検査である。個別の取り組みを見る前に、同社が描くディープラーニング活用のロードマップを概観してみよう。極めて興味深い。

 ディープラーニング活用のロードマップで取り扱う情報は、「画像」「数値・記号」「制御」「言語・概念」として分類した。さらに画像は「静止画単体」「動画単体」「複数」の3つに情報を細分化した。それぞれに対して「画像認識」「高速推論」「物体検出」などのキー技術を割り当てて、順番に開発を進めるロードマップを用意しているのである。

開発していくべき項目を「画像」「数値・記号」「制御」「言語・概念」 に整理した
開発していくべき項目を「画像」「数値・記号」「制御」「言語・概念」 に整理した

 LDウエハー外観検査システムは、画像カテゴリーの「静止画単体」の技術で、17年に開発、18年に運用を開始した。一方のLDチップ一括検査システムは、同じく画像カテゴリーの「複数」の技術で18年に開発したものだ。19年には、「数値・記号」カテゴリーを扱う情報に対する開発に取り組んでいる。

キー技術とそれを活用するロードマップが明確に描かれている
キー技術とそれを活用するロードマップが明確に描かれている

 ディープラーニングの1つの手法で、時系列データの分析に効果が期待できるリカレントニューラルネットワーク(RNN)や、複数のコミュニケーションモードを使って学習するマルチモーダルをキー技術として、センサー情報による診断や事業情報の解析などへの応用を目指している。「AIで何ができるか」を優先するのではなく、求める機能とキー技術、対象とする情報を俯瞰(ふかん)してロードマップを描いている点に同社の戦略性が現れている。

「AIプラットフォームを製造業の改革基盤にする」

 すでに社内で運用している、LDウエハー外観検査システムとLDチップ一括検査システムの2つのシステムも含めて、フジクラはAIで利用するための情報をやり取りする全社的な「AIプラットフォーム」の構築を推進している。国内外の工場などに設置される検査装置やセンサー、エッジのAIデバイスから得た情報を、国内の拠点で一括管理する。そんな壮大な情報基盤である。IP網を通じて、AI分析やシステムの監視、運用保守に必要な情報をリアルタイムでやり取りできる。

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