キユーピーがディープラーニングを使った食品検査装置を開発した。「かつて(自分がいた)電機業界で衰退を目の当たりに。食品業界は大丈夫か」。そんな開発者の思いから国内競合にも売るという。「ディープラーニングビジネス活用アワード」大賞を得たプロジェクトの全貌を紹介する。

 マヨネーズやドレッシングから、離乳食や介護食まで多様な商品を提供し、日本の食を代表するブランドの1つであるキユーピー。同社は食品の原料に不良品がないかを検査する装置にディープラーニング技術を取り入れ、低コストで確実な検品ができる「AI食品原料検査」の装置を開発した。

協調領域の技術は共通化して日本ブランドを守る

 キユーピーの生産本部・生産技術部・未来技術推進担当・担当部長の荻野武氏は、AI食品原料検査装置の開発が最終的に目指すところをこう力説する。

 「電機など、日本の多くの産業はこの20年余りで競争力を失ってきた。食品業界についてはまだ、日本の食品の安全・安心への信頼度が高く、中国に代表される他国に急に抜かれることはないだろう。しかし技術はすぐにキャッチアップされる。5年後、中国などでも工場が完全にロボット化されたら食の安全・安心のレベルが上がる。フードテックの分野で日本はいかに諸外国に対峙したらいいか。そのためには食品でも、安価に商品を提供すると同時に、日本ブランドで勝負できるようにしなければならない。それには原料も含めた安全・安心を日本の食品メーカー全体で守っていく必要がある」

 荻野氏はかつて日立製作所の技術者だった。電機業界の衰退を身に染みて感じた一人である。そこから生まれる危機感だろう。

 食の安全・安心を担保するには生産工程の管理はもちろん、原料の安心・安全も確実に守る必要がある。容易ではないだけに、国際競争力の源泉になる。

 「良い商品は良い原料からしか生まれない」。そんな創始者・中島董一郎の思いを引き継ぐキユーピーでは、安全・安心の担保に労力もコストも多くかけてきた自負がある。一方で、同じ労力やコストを日本の他のメーカーも負担している。重複した労力やコストはできるだけ省き、共通化すべきだ。それがキユーピーの提案だ。

 「もし今後、AI食品原料検査装置の必要性を各社が認識して、それぞれ独自で開発し始めたらどうなるか。5人のAI技術者が必要になるとして、約5万社の食品メーカーがすべて取り組んだら25万人ものAI技術者が必要になる。こんな無駄なことはしていられない。競争領域と協調領域を分けて、協調領域を共有していかないと、人口減少時代に日本のブランド価値を継続できなくなる」と荻野氏は言う。こうした広い視野に立った上でのAI食品原料検査装置の外販であり、それが競争と協調のすみ分けが可能かの試金石でもあるのだ。

良品の原料を学習して不良品を排除する逆転の発想

 キユーピーが開発・検証して自社で実用化を進め、さらに外販を推進しているAI食品原料検査装置は、ベビーフードの原料となるダイスポテトの選別で2017年から試行を続けてきた。農作物であるジャガイモをサイコロ状にカットしたダイスポテトは、どうしても品質や形で基準を満たさない不良品ができてしまう。従来は人の目で確認して良品と不良品を選別していた。「安全・安心を担保するために必要な作業ではあるが、人手での選別は大変な作業だ。作業者によるばらつきもあるし、熟練者がいなくなったら選別そのものができなくなる。さらに、キユーピーでは従業員への配慮も考えて、大変な選別作業をなくしていくことも視野に入れていた」(荻野氏)。

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