リアルとデジタルの2つの世界をつなぐため、画像認識にAIを使った実証実験をヤフーが実施した。ガソリンスタンドでの店頭価格やコインパーキングの満空情報などを、130台の物流車両が“クローリング”してデジタルに取り込んだ。実用化への課題も分かってきた。
世の中にはデジタル化されたデータが満ちあふれている。一方で、私たちが暮らすリアルな社会にも多様な情報が多くある。街で見かけた行列は何の行列だろう。そう思ってスマートフォンを手にしても、その行列の原因を理解できないこともある。デジタルとリアルの世界の間に、まだまだ情報の相互連携が成り立っていないのである。
デジタルの世界で多様なサービスを提供するヤフーは、リアルの世界の情報をディープラーニングを活用した画像認識でデータ化し、今後のサービス向上につなげる取り組みを進めている。第一歩として実施したのが、駐車場の満空情報やガソリンスタンドの価格情報を、車載のドライブレコーダーのカメラ映像から認識する実証実験である。
リアル情報のデジタル化にディープラーニングを活用
リアルとデジタルの2つの世界をつなぐため、画像認識にはAI(人工知能)を使った。両者の“壁”について、ヤフーの検索統括本部検索プラットフォーム開発本部の西岡孝章氏はこう説明する。
「ヤフーの検索対象や地図、カーナビなどで利用する情報はオンラインのものばかりだった。地図アプリやカーナビは日々の暮らしを良くするミッションを掲げている。であればリアル世界の情報、それもリアルタイムな情報が重要になる。ただそれらは現時点では探すことが難しい。デジタル側からリアル世界の情報を知るには、街の中の情報を高い頻度で収集できるクローラーが必要だと考えた」
一方で、自動運転社会に向けて自動車にはカメラなどのセンサーがたくさん取り付けられ、多くのデータが集まる。このデータを使ってリアル世界の情報をデジタルデータとしてインターネットで提供できるようになれば、大きなビジネスチャンスになる。もちろん、インターネットやスマホの利用者にとっても大きな利便性の向上につながる。その橋渡し役にディープラーニングを使い、実証実験が始まった。
実験には2つの側面があった。車載のドライブレコーダーの映像をディープラーニングでどれだけ認識できるか、データを収集しサービスとして提供する際にどんな課題があるか、である。
前者は技術的な課題、後者は社会的、ビジネス的な課題といえる。単なる技術検証にとどまらず、社会実装を前提とした取り組みである。
ドライブレコーダーを「目」として、ディープラーニングで解析した対象は3つある。「ガソリンスタンドの価格情報」「コインパーキングの満空情報」、そして都市部の路上にある「時間制限駐車区間の満空情報」である。路上に白線で囲われた駐車スペースのパーキングメーターのことだ。
インターネット上にあるガソリンスタンドの価格情報はユーザーの入力情報が元だ。コインパーキングの満空情報も大手事業者からはデータ収集できるが、全体の半数程度しか分からない。パーキングメーターの駐車スペースに至っては、満空情報の提供どころか、設置場所がPDFの地図で提供されているような状況だ。これらの情報をドライブレコーダーの映像から認識できるのか。実験は2018年10月15日から2019年3月31日に実施された。
130台の物流車両で街を“クローリング”
ドライブレコーダーは、ヤフーの連結子会社であるアスクルのグループ会社、ASKUL LOGIST(東京・江東)の配送車両約130台に搭載してもらった。配送センターから個人宅などへの配送を担う車両で、都内半分ほどのエリアをカバーしている。
サービス開発を担当する検索統括本部政策企画本部の兵藤安昭氏は言う。
「どれくらいの車両があれば、必要な情報が確保できるかを130台で検証した。ドライブレコーダーは業務用として汎用的なものだ。1つの機器ですべての機能を賄える製品を選んだ」
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