「ディープラーニングは魔法の技術ではない」──書籍『ディープラーニング活用の教科書』の発刊を記念したセミナーで、NTTドコモの開発者、FiNC Technologiesの代表が活用の当事者だから分かるリアルな苦労話を明かした。

AI(人工知能)はディープラーニングの発展で急速にビジネスへの応用が進んでいる。そうしたなかで、実際にディープラーニングがどのように活用されていて、成果や課題をどのように捉えているかは、多くの方の関心事だろう。そうした関心に応えるイベント「ディープラーニング活用の理想と現実」(主催:日本経済新聞社クロスメディア営業局、後援:日本ディープラーニング協会、企画:日経BP社「日経クロストレンド」)が2018年11月21日に開催された。日経BP社が刊行した『ディープラーニング活用の教科書』を参考書にして、具体的なビジネスへの成果と課題の一端が明らかにされた。
AIタクシーが売り上げ増を実証
イベントの冒頭で、『ディープラーニング活用の教科書』の編集を担当した日経BP社日経クロストレンド開発長兼副編集長の杉本昭彦が、書籍に掲載したディープラーニングの国内35事例をテンポよく紹介した。画像認識、行動予測や異常検知、ロボットと自動運転、クリエイティブな領域と、応用分野を整理しながら事例を説明。ディープラーニング活用が多くの企業で現実のものになっていることを改めて感じさせた。
次いで、NTTドコモサービスイノベーション部 第2サービス開発担当の石黒慎氏が登壇し、ドコモのディープラーニング活用事例を「AIを活用したタクシー需要予測モデル」と題して紹介した。話題として取り上げたのは、実用化を進めているタクシー需要予測モデルと、18年11月26日に実証実験を開始した(イベント開催時は開始前)自転車シェアリングサービスにおける自転車再配置の最適化だった。
すでに実用段階に入っているのが、タクシー需要予測モデルの活用。もともとの課題は、「タクシーの運転手に十分な事前情報や知識が不足していることで、需要のあるエリアに効率的な配車ができない」ことだったという。新人ドライバーは需要があるエリアが分からず、ベテランドライバーは慣れたエリアに戻りがち。実際のタクシー需要に見合った配車ができないのだ。
そこで、NTTドコモの「モバイル空間統計」から得たリアルタイムの人口推計情報と、実際のタクシーの乗車データ、天候などのオープンデータを組み合わせて、タクシー需要を予測するモデルをディープラーニングで作成した。成果は目に見えて上がっている。「フィールドで実証実験をしたところ、4カ月の試験期間に平均でタクシードライバー1人当たり1400円の売り上げ増があった。実車率も最大で数%程度の上昇が見られ、効果が高いことが分かった」(石黒氏)。実証実験の成果を基に、18年2月には「AIタクシー」としてサービスの提供を開始し、すでに東京や名古屋で利用が始まっている。

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