建設コンサルタント業務を手がける八千代エンジニヤリング(東京・台東)は、河川の護岸の維持管理にAI(人工知能)を活用し、損傷などの点検を効率化するシステムを構築した。1万枚超の写真の学習、改善を重ねて、河川技術者とAIでほぼ同じ判定結果が得られるようになっている。

こうした河川の護岸の損傷部分をAIで検出する(赤い線はAIによる検出部分)
こうした河川の護岸の損傷部分をAIで検出する(赤い線はAIによる検出部分)

 道路や橋、河川の護岸など社会インフラは高度経済成長時代に一気に作られたものが多く、老朽化が進んでいる。一方で自治体の税収は伸び悩み、維持管理を効率化することが大きな課題になっている。八千代エンジニヤリングは、河川の護岸の損傷などの点検を効率化するAIシステムを構築した。今後、国や地方自治体が社会インフラの維持管理にAIを適用するようになった際に、すぐにも対応できるよう準備を進めている。

 多くの人が生活や仕事をする上で利用する道路や橋、河川は、社会インフラとして適切な維持管理が求められるものだ。実際には管理する国や自治体が業者に委託して点検を行っているが、その手法は現行の法律に則ったもので、人間が目視して写真を撮影し、台帳で管理するといったものだ。しかし、社会インフラの老朽化は着実に進行し、ややもすると点検業務が追いつかない状況になる。

 八千代エンジニヤリング 技術創発研究所AI解析研究室 上席研究員の藤井純一郎氏は「社会インフラの維持管理を効率的に行えるようにすることは目下の大きな課題。現在は法律が追いついていないけれど、AIなどITを使って効率的に管理する必要性が高まると八千代エンジニヤリングでは考えている。国や自治体がAIなどに対応する前に、アクションを起こす必要があると考え、河川の護岸の点検にAIを活用したプロジェクトを実施した」と状況を説明する。

 社会インフラの中でも、道路や橋に比べると、すぐに直接的な不利益につながることが少ない河川の護岸コンクリートの維持管理は後回しにされがちだ。維持管理や点検がこれまででも厳密になされていないことが多く、早期にAI活用による効率化の効果を図るには護岸が適していると判断した。護岸コンクリートの維持管理では、点検で損傷やクラックと呼ぶヒビの1つひとつを見つけて、それぞれを修理するというわけではない。「通常、個別の損傷でなく損傷が多い区間をまとめて補修する。区間単位で損傷が多いか少ないかという判断ができればよいため、AIで認識することに適していると考えた」(藤井氏)。

 現行の手法では、例えば国土交通省管理の河川の場合で年に1~2回程度、技術者が河川を歩いて見て回り、護岸の写真を撮影する。損傷と思われる部分などは手書きでメモをとり、社内に戻ってから撮影した写真をパノラマ写真状につなぎ合わせたうえで、損傷の位置をコメントとして書き込んでいく。その台帳を元に、修理の優先順位をつけて対応していくという流れだ。写真を撮って損傷部分を抽出する作業を、ディープラーニングによる画像認識で手助けしようというプロジェクトである。

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