顧客から取得したデータを基に、AI(人工知能)とIoTを駆使して、顧客一人ひとりに最適化した商品を作る企業が現れ始めている。キーワードは「パーソナライゼーション」だ。スタートトゥデイや資生堂が取り組む、次世代のモノづくり“究極”のパーソナライゼーションの神髄に迫る。

スタートトゥデイは7月3日、身体測定ツール「ZOZOSUIT」を活用したオーダーメードスーツの販売を発表した
スタートトゥデイは7月3日、身体測定ツール「ZOZOSUIT」を活用したオーダーメードスーツの販売を発表した

 「安価で(サイズが)ぴったりな商品がすぐ届く。試着もサイズ選びも必要ない。ほとんどのベーシックな商品は『ZOZOTOWN』で買う。(そうした世界を)2~3年で作っていく」

 スマートフォンと連係した身体測定ツール「ZOZOSUIT」、および同ツールと連携したPB(プライベートブランド)「ZOZO」の本格展開の発表の場で、スタートトゥデイの前澤友作社長はこう宣言した。顧客一人ひとりに合わせて商品を作る、次世代モノづくり“究極の”パーソナライゼーション時代の幕開けだ。スタートトゥデイは2018年10月に社名をZOZOに変え、PBを含むブランド力の強化を図る。

 スマホの普及、SNSの利用拡大によって消費者の趣味嗜好の多様化が急速に進む。大手メーカーは画一的なマスマーケティングからの脱却を図り、ターゲット層を絞って、その層に響く商品を開発する「スモールマス」のマーケティングにかじを切ろうとしている。しかし、そのスモールマスすら飛び越え、個人を対象としたオーダーメードのモノづくりに取り組む企業が現れている。

パーソナライゼーションとは

 これを実現するキーワードが「パーソナライゼーション」だ。消費者の趣味嗜好に合わせて、一人ひとりに適した情報やコンテンツを届ける手法を指す。データを活用したパーソナライゼーションの歴史は、意外と古い。最初はマーケティング領域で導入が進んだ。グーグルが発明した「検索連動型広告」は、最古のパーソナライゼーション型広告の一つだろう。検索キーワードという行動データを基に、一人ひとりに異なる広告の出し分けを可能にした。

「パーソナライゼーション」はマーケティング領域から導入が始まり、モノづくりにまで影響が及び始めた
「パーソナライゼーション」はマーケティング領域から導入が始まり、モノづくりにまで影響が及び始めた

 また、顧客の購買データやサイトの行動データから、顧客ごとに購買につながりやすい商品を優先的にサイトに表示したり、メールに掲載して配信したりできる「レコメンドエンジン」の登場は、EC業界の成長を強く後押しした。

 マーケティング領域に続いて、パーソナライゼーションの導入が進んだのはコンテンツだ。世の中に流通する情報量が爆発的に増える一方で、消費可能な情報量はほぼ横ばい。情報の取捨選択が困難になっている。スマートニュースの「SmartNews」をはじめとするニュースキュレーションアプリは、アプリの利用データなどから利用者の興味関心を割り出して膨大なニュースの中から利用者ごとに適した情報を届けている。カスタムメードのニュースメディアと言えるだろう。

 スポティファイ・テクノロジーが展開するストリーミング音楽配信サービスの「Spotify」は利用データから、利用者の好みに合わせたプレイリストを自動で作成する。利用者は自分好みのプレイリストを聴くことで、新しい楽曲との出合いが生まれる。利用すればするほどにデータがたまり、自分にフィットするサービスに進化する。それが継続的な利用につながっている。

 従来は主に広告やコンテンツといった、情報の個別配信に使われてきたパーソナライゼーション。スタートトゥデイに代表される次世代のモノづくりに取り組む企業は、この手法を商品開発に取り込んでいる。従来のオーダーメードとの最大の違いは、大量の顧客を対象にできる点だ。AIとIoTがこれを可能にした。

 下図はパーソナライゼーションを取り入れた次世代モノづくりの仕組みを示している。独自開発したIoTデバイスや、スマートフォンとの連係で個人に関するデータを取得する。各社が取得するデータは主に身体データだ。特集の2回目で紹介する資生堂はスマホを使い、肌に関するデータを取得している。

スマホやIoT機器を使って顧客のデータを取得、AIで解析して商品を製造する次世代モノづくりの仕組み
スマホやIoT機器を使って顧客のデータを取得、AIで解析して商品を製造する次世代モノづくりの仕組み

 スタートトゥデイであれば、顧客ごとの採寸データとなる。オーダーメードの衣料品作りは従来、専門家が直接採寸をする必要があったため、大規模なサービス展開が難しかった。ZOZOSUITはスマホを使うことで、この常識を打ち破った。スマホ1台あれば誰でも自宅で手軽に採寸できる。1人1台が当たり前のスマホを基点とすることで、一気にデータを集めることができるのが利点だ。

 ZOZOSUITを身に着けて、専用のアプリの音声指示に従って時計回りに12枚の写真を撮影するだけで採寸は完了する。「マーカー」と呼ばれるZOZOSUITに描かれた300個超の白い円を目印に、画像認識技術によって撮影者の体を3Dで再現し、AIが自動的に洋服の製造に必要な肩幅や身幅、着丈といったサイズを割り出す。

スマホで実現 常識外のモノづくり

 さらにスタートトゥデイはZOZOSUITを無料で配布することで、データ基盤の拡大を急ぐ。7月末時点で配布枚数は112万枚に達した。2018年度中には最大で1000万枚を配布する計画だ。

 こうして取得したデータを基に、顧客の体形にぴったり合った商品を届ける。サービス開始当初はジーンズやTシャツなど商品が限られていたものの、オックスフォードシャツやスーツなど商品ラインアップは着実に増えている。その製造手法はベールに包まれていたが、7月の発表会ではその一端が明らかになった。事前に膨大な型のデータを用意しておき、注文を受けた顧客に適した型のデータを自動的に選んで製造する一種のセミオーダー式を採用していたのだ。しかし、スーツは受注時点で型紙から制作をする文字通りのオーダーメードとなる。

スタートトゥデイのPB「ZOZO」のジーンズ
スタートトゥデイのPB「ZOZO」のジーンズ

 スタートトゥデイは今秋、全自動編機を製造販売する島精機製作所(和歌山市)が開発する裁断や縫製を不要にする新型編機「WholeGarment」を使い、ニットのオーダーメードも開始する方針だ。「これまでにないパーソナライズされた商品を届ける」と前澤氏は話す。

 AIとIoTで実現する次世代のモノづくり。それが“究極”のパーソナライゼーションだ。本特集では資生堂、オーダーメードシャツ専門の米オリジナルなど、この次世代のモノづくりに取り組む企業の戦略をつまびらかにする。

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