米シアトルは人工知能(AI)の活用で今、次々とスタートアップが起業し活気を帯びている。そのAIエコシステムを狙って米中のテックジャイアントが次々と拠点を構えている。一方で、マイクロソフトやアマゾンはシアトルを基盤として、新たなAIリソースの発掘を模索し始めた。シアトル現地のベンチャーキャピタルにも動きが出てきている。
ここまでの連載で紹介してきたように、シアトルのAIエコシステムに名だたる米中のテックジャイアントがぞくぞくと参入してきている。シアトルには大手のベンチャーキャピタル(VC)が少ないため、シリコンバレーのVCのほか企業の投資部門であるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)なども触手を伸ばし始めている。
象徴的なのが2年前の出来事だ。シリコンバレー企業である米アップルがシアトルのAIエコシステムに入るために採った手段が現地に波紋を起こした。
アップルがシアトルの機械学習(マシンラーニング)のスタートアップのトゥリを買収したのだ。買収額はおよそ200億円と報道されており、「当時のシアトル現地の相場からすると1桁高い」(地元の事情に詳しいVCの幹部)。シリコンバレーとシアトルの資金力の差をまざまざと見せつけた一幕だったのだ。
トゥリのCEOだったカルロス・ゲストリン氏はマシンラーニングの専門家であり、アップルのマシンラーニング分野の責任者に就任している。ちなみにゲストリン氏はアマゾンがワシントン大に寄付して設けた講座の教授職を今も兼任している。その名も「アマゾン・プロフェッサー・オブ・マシンラーニング」だ。
こうしたシリコンバレー勢の攻勢に米マイクロソフト(MS)や米アマゾン・ドット・コムなどシアトル現地を基盤としている大手は、全米や全世界のリソースの確保で“逆襲”に乗り出している。
AIへの投資はシアトル以外

MSは2018年4月に傘下でスタートアップ投資をするコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のM12を発足した。シアトルにも拠点があるが、シリコンバレーにほど近い米サンフランシスコに本拠を構えている。もともと2016年にマイクロソフトベンチャーズとして発足したが、VCとしての立ち位置を明確にするためM12と改称したという。MSの社内にベンチャーやスタートアップを支援する組織もあり、混同を避ける狙いもあった。
M12のリサ・ネルソン マネージングディレクターは「M12はアーリーステージへの投資に特化している。マイクロソフトの外で何が起きているのかを知るため、毎日のようにスタートアップに会っている」と説明する。
M12の総投資額は公表されていないが、北米や欧州・イスラエルを中心に65社以上のBtoBのスタートアップに投資している。
このうち約4分の1の16社がAI&マシンラーニング関連である。AI&マシンラーニングは、ビッグデータ&アナリティクスやセキュリティーなど全部で7つの注力分野の中で割合が最も大きい分野だ。ただし、その中にはシアトルが本社のスタートアップはない。米国ではシリコンバレーやサンフランシスコのほか、ニューヨークやテキサス、国外ではイスラエル、カナダ、英、ポルトガルといった企業で構成している。
M12の出資を受けるスタートアップ側にもメリットはある。「スタートアップではアクセスできないような顧客企業であっても、マイクロソフトのネットワークを使ってサービスを売り込むことができる」(ネルソン氏)。
M12の出資企業をMSの本体が買収することもある。例えば、カリフォルニア州バークレーにある企業向けのAIアルゴリズムを最適化するBonsaiを、MS本体が買収し傘下に収めている。
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