テンセントは「Make AI Everywhere」をモットーに、技術研究と業務効率化の視点でAI(人工知能)の活用を広げようとしている。既に中国で最強レベルの囲碁AI「絶芸(ジュェイー)」や、策略協力型ゲームAI「絶悟(ジュェウー)」をはじめ、翻訳、記事作成などユニークなAIツールを持つ。

 テンセントのAIツールには絶芸や絶悟の他に、音声認識ツール「微信智聆(ズーリーン)」、マルチ言語翻訳ツール「翻訳君(ファンイージュン)」、記事自動作成AI「ドリームライター」などユニークなものが多い。

絶芸:コンピューター囲碁AI

 絶芸は、テンセントAIラボ(Tencent AI Lab)が開発したコンピューター囲碁プログラムだ。深層学習と強化学習を生かし、中国最強の囲碁AIまで急成長してきた。2016年3月に誕生し、17年3月の「第10回UEC杯コンピューター囲碁大会」で、日本最強の囲碁AI「DeepZenGo」などを相手に11連勝で優勝。中国囲碁AIの王者として輝いた。

 しかし、18年4月に中国・福州で開催された「世界人工知能囲碁大会」の決勝戦で、同じくテンセントに所属するWeChat(ウィーチャット)翻訳チームが開発した囲碁AI「PhoenixGo」に敗れた。

【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト:「tgpc.qq.com」
【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト:「tgpc.qq.com」

 テンセントは、技術開発において独自の手法を採る。社内の1チームのみに開発を託すのではなく、複数のチームで同時に開発する「社内競争」を採用することが特徴だ。囲碁AIもそうだが、現在主流となっているチャットツール、ウィーチャットも、出来上がるまでは複数のチームで同時に開発し、最終的に広州チームが開発スピードで勝ったという。今、中国囲碁AIの世界では、テンセントが一番強いということに異議はないだろう。

絶悟:策略協力型ゲームAI

 絶悟は、テンセントAIラボが開発したマルチプレーヤー・オンライン・バトル・アリーナ(MOBA)ゲーム「王者の栄光(King of Glory)」向けの策略協力型ゲームAIだ。18年12月に開催された、王者の栄光の18年度KPL(King Pro League)決勝戦(団体戦)で最高レベルの“人類選手チーム”と対戦し、優勝した。人類選手チームのメンバーはいずれも、王者の栄光プレーヤーのトップ1%に入る高レベルの選手で構成されていたのにもかかわらずだ。

【出典】テンセントの「王者の栄光」オフィシャルサイト「pvp.qq.com」
【出典】テンセントの「王者の栄光」オフィシャルサイト「pvp.qq.com」

 王者の栄光は、中国で最も人気のあるMOBAゲームであり、10の2万乗に相当する操作の可能性を秘める、極めて複雑な環境を持つといわれている。ゲームに勝つには、優秀な策略能力とチームワークが必要だ。絶悟は教師あり学習(Supervised Learning)などの方法を通じてKPLプロプレーヤーのデータを学習し、大量の対戦訓練を積み重ねてきた。人間の150年間の練習に相当する訓練を1日で行い、過去1年間、継続して学習してきたという。

 絶悟は、囲碁AI「絶芸」に次ぐ、テンセントの深層学習と強化学習領域の研究開発プロジェクトであると同時に、「AI+ゲーム」の新しい可能性を模索するものである。これにより、ゲーム領域におけるAIの活用が広がるのではないかと期待されている。

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