テンセントは、中国SNSの領域で無敵の存在としてその地位を確立しているが、AI(人工知能)開発ではやや出遅れ感がある。AIの価値を認識し始めた現在、「エーアイ・イン・オール(AI in All)」という戦略で巻き返しを図る。この詳細と直近の動きについて解明する。

 WeChat(ウィーチャット)によって中国で絶対的な存在感を持つテンセント(騰訊控股)だが、破壊的なテクノロジーやビジネスモデルの出現によっては、この“帝国”を覆される可能性もあると危機感を持っているという。

 テンセントの最大の武器は、圧倒的なユーザー数を持っていることだ。2018年6月末時点では、WeChatのアクティブユーザー数は10億、QQのアクティブユーザー数は6億を超えており、これらのアプリは、中国人の日常生活に欠かせない情報インフラとして定着化している。

 中国ITベンチャーの創業者がベンチャーキャピタルなどから資金を調達する際、よく直面する1つの質問が、「もし、テンセントがあなたと同じことをやったらどうするのか」だ。少なくとも現時点では、何らかの破壊的なイノベーションがない限り、SNS関連のサービスでテンセントに勝つことは、至難の業と言える。

テンセントのAI戦略:AI in all

 膨大なユーザー数をもって、テンセントは、中国SNS領域で無敵の存在として地位を固めている。不動の地位を有するテンセントだが、AIの波が押し寄せている今、AIに対する戦略的な対応はやや後れを取っている印象だ。

 中国AIの旗手であるバイドゥの「オール・イン・エーアイ(All in AI)」戦略と対照的に、テンセントは「エーアイ・イン・オール(AI in All)」という戦略を打ち出した。モットーを、「Make AI Everywhere(どこにでもAIを)」と定めており、このAI戦略の要素として、テンセントならではのAI利用シーン、データ、クラウドコンピューティング、AI人材の4つが挙げられている。

【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト「tgpc.qq.com」
【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト「tgpc.qq.com」

 AI in all戦略を実現するために、テンセントは「基礎研究の強化」「利用シーンの深耕」「AI能力の開放」といった3つのアプローチを取り、AI地盤を固めようとしている。

*基礎研究の強化
 テンセントの4つのAI研究開発機構(後述)を中心に、音声認識、画像認識、自然言語処理、機械学習、ロボティクスなど基礎技術の研究を強化する。

*利用シーンの深耕
 ユーザー企業やビジネスパートナーと協業することにより、ソーシャルネットワーク、コンテンツ、ゲーム、医療、小売り、金融、安全、翻訳などの利用シーンを深耕し、AIの活用を促進する。

*AI能力の開放
 技術、リソース、市場、資金などを含め、テンセントのAI能力をAI起業者、パートナー、開発者に提供し、AIエコシステムの形成やAIの普及に努める。

テンセントAIの位置付け:インテリジェント・アシスタント

 テンセントの社風は、ビジネスで実利を取る、というイメージがあり、AI戦略についてのアピールもどちらかというと控えめだ。バイドゥの「AIエンパワーメント」という積極的な言葉と対照的に、助け・補助の意味合いを強調したコンセプト「インテリジェント・アシスタント」を前面に打ち出している。つまり、AIはあくまでもインテリジェンスを持つアシスタントなのだ。

 会長兼最高経営責任者(CEO)の馬化騰(ポニー・マー)氏は、「エンパワーメントという言葉は、強気な言い方だと感じており、ユーザーとの協調姿勢を表せない。テンセントは、AI in all戦略で、インテリジェント・アシスタントを使う」と説明する。

【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト「tgpc.qq.com」
【出典】テンセント・グローバル・パートナー・カンファレンスのオフィシャルサイト「tgpc.qq.com」

テンセントのAIツールボックス

 インテリジェント・アシスタントを具現化したのは、テンセントの「AIツールボックス」と呼ばれるAIツール群だ。ツールボックスだから、その中にさまざまなAIツールが入る。これらのAIツールは、機能ごとに「ai.qq.com」というオープンプラットフォームに公開され、OCR(光学的文字認識)、顔認識、画像認識、画像特効、情報審査、チャットボット、機械翻訳、テキスト解析、自然言語解析、音声認識、音声合成などのジャンルが含まれている。

【出典】テンセントのAIオープンプラットフォーム「ai.qq.com」
【出典】テンセントのAIオープンプラットフォーム「ai.qq.com」

テンセントの主力AI製品

 テンセントは、自社のAI技術を向上させるために、いくつかの主力AI製品をリリースしている。医療AI「覓影(ミーイン)」は、公共機関に認められた国家レベルの医療画像オープンプラットフォームであり、中国の医療AI領域をリードしている。コンピューター囲碁対戦AI「絶芸(ジュェイー)」、コンピューターゲーム対戦AI「絶悟(ジュェウー)」は、ゲーム式AIの代表で、それぞれ最強の人間選手に勝った実績を持っている。

 音声認識ツール「微信智聆(ズーリーン)」、マルチ言語翻訳・通訳ツール「翻訳君(ファンイージュン)」、記事自動作成AI「ドリームライター」は、サミットや講演などの場面で、スピーカーの発言を聞き取り、複数の外国語にリアルタイムに訳し、その場で記事を作成する一連の作業を自動で完結できる。

【出典】インターネット情報を基に筆者まとめ
【出典】インターネット情報を基に筆者まとめ
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