自社商品・サービスを繰り返し購入・利用するユーザーをロイヤルユーザーと定義したうえで、「購入(利用)者数を追うよりもロイヤルユーザーを増やすことが重要だ」と説く……。マーケティング部門では業種を問わずよく語られる考え方だ。果たしてこの仮説は成立しているのか、検証してみた。
自社WebサイトやECサイトの運用に当たって、優良顧客を定義づけてその分析に取り組んでいる人も多いだろう。自社サイト・アプリ分析でよくある悩みの1つに、自社データだけ見ていてもユーザーの競合サービス利用状況を把握できない、というものがある。「自社サービスを頻繁に使っている優良ユーザーは、競合サービスよりも優先して使ってくれている」と思いたいが、その確認は容易ではない。
今回、ヴァリューズが保有するアプリの行動ログデータを用いて、アプリ利用者規模や利用頻度、競合アプリの利用傾向を調査した結果をリポートする。検証する仮説は以下の2つだ。
<仮説1>利用者数が多いアプリほど、利用頻度は低くなる
多くの人が使っているアプリほどライトユーザーを含むため、利用頻度が低くなるという仮説はよく聞かれる。実際に同業種のアプリを比較したらその傾向は確認できるかどうか?
<仮説2>あるアプリを頻繁に使うユーザーは、同カテゴリーの他アプリの利用頻度が落ちる
例えばECモールなら、「Amazonを頻繁に利用するユーザーは楽天市場をあまり使わない、逆も然り」は成り立っているかどうか?
<調査方法>
ヴァリューズが保有する、一般消費者モニターから許諾を得て取得したアプリの行動ログを使って分析。「利用者=アプリを起動した人」でカウントしている。
では、「仮説1」から見ていこう。ヴァリューズが保有するスマートフォンパネルから、「SNS」「総合EC」「動画ストリーミング」の3つのカテゴリーでアプリの利用ログを使って検証した。2022年2月の1カ月間、アプリの月間利用者数と、利用日数のユーザー1人当たり平均値をプロットしたのが下図のグラフだ。
仮説通りであれば、アプリ利用者数が多いほど利用頻度は低くなるので、プロットした点は左上から右下にかけて右肩下がりの分布になるはずだ。ところがどのカテゴリーのアプリも右肩下がりではなく、むしろ、アプリ利用者数が多いほど1人当たり利用日数頻度も多い、右肩上がりの傾向にある。理由としては、大手サービスほど商品やコンテンツの数、ユーザーの投稿などが充実していて、日常のさまざまなシーンで利用しやすいことが考えられる。
カテゴリー別に見ると、SNSではYouTubeのみ、他アプリより利用日数がやや少ない。これは外出時などに音を出したくないといった事情からタップを控えている可能性が考えられる。
動画ストリーミングでは、AmazonPrimeビデオは利用者数が突出して多いものの、利用日数は中位に位置している。Amazonでは送料無料や「お急ぎ便」を目当てにプライム会員になる人も多く、必ずしも動画コンテンツに興味がある人ばかりではないことが、他アプリとは事情が異なる点だ。
したがって、アプリ利用者が多いサービスはライトユーザーを含むために利用頻度が下がるという仮説は成立せず、アプリ利用者が多いサービスほど利用頻度も高くなる傾向がある。
この結果から、サイトやアプリの利用者像を絞り込んで特定層に高頻度で使ってもらうよりも、ある程度幅広くユーザーのニーズを想定してそこに対応するコンテンツなどをあらかじめ準備するほうが、利用者の規模の面でも利用頻度でも成功しやすいのではないか。そんな戦略が描ける。
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