口コミが増えた日本のスポットはどこか──。日経クロストレンドが世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」の協力を得て投稿数を分析したところ、地獄谷野猿公苑(長野県)が急浮上した。「スノーモンキーパーク」として海外誘客に成功。インバウンド時代のトップランナーとしてひた走っている。
全国各地のスポットを対象に、トリップアドバイザーに寄せられた口コミ数を2018年12月と19年1月で比較。増加数順に30スポットをランキング化した。
「初詣やウインタースポーツシーズンということもあり、神社仏閣やスキー場の感想を寄せる方が増えた」。トリップアドバイザーがそう分析する通り、1位には成田山新勝寺(千葉県)、3位には伏見稲荷大社(京都府)がランクイン。4位には白馬八方尾根スキー場(長野県)、8位には苗場スキー場(新潟県)が入った。
この他、5位に東京タワー(東京都)、6位に海遊館(大阪府)、7位に東京スカイツリー(東京都)と、東西のランドマークが順当に投稿数を伸ばした。こうした代表的観光スポットを追い抜き、2位に飛び込んだのが地獄谷野猿公苑(やえんこうえん)だ。
トリップアドバイザー英語版の表記は、「Jigokudani Snow Monkey Park」。日本よりも海外からの口コミが目立ち、「Day trip but so worthwhile(日帰り旅行でも価値がある)」「Amazing experience(素晴らしい体験)」と、絶賛するコメントが並ぶ。日本で訪れるべき、知る人ぞ知るスポットとして今、脚光を浴びているのだ。
「スノーモンキーパーク」という英訳の通り、最も混雑するのは冬。Googleトレンド検索でも、毎年冬になると検索数が跳ね上がる傾向が見て取れる。口コミ数が大きく伸びたのも、冬に合わせて海外からの観光客が詰めかけたからだ。
山奥の“秘境”を海外メディアが発見
地獄谷野猿公苑がオープンしたのは、1964年のこと。ニホンザルによる食害が問題となる中、駆除ではなく、餌付けで共生を図ろうしたのが発端だった。
長野県北部の山ノ内町に広がる、標高850メートルの渓谷。冬は1メートルを超す雪で覆われ、最低気温が氷点下10度を下回ることも珍しくない里山に、野生のニホンザルが群れをなす。来苑者数は年間約20万人。うち4割は海外客が占める。
人里離れた山奥になぜ、外国人が集うのか。それは世界で唯一、温泉に入る野生のニホンザルを観察できるからに他ならない。
ニホンザルは日本の固有種であり、ヒトを除く霊長類で最も北に生息する天然記念物だ。その希少性に加えて、猿が温泉につかるビジュアル面の意外性が組み合わさり、生態を一目見ようと、観光客のみならず、研究者や写真家も海外から足を運んでいる。
スノーモンキーブームは、今に始まったわけではない。実は、早くから海外メディアに見いだされていた。1970年に米ライフ誌の表紙を飾った。98年の長野五輪を機に、海外メディアでの露出はさらに増えた。
しかし、人里離れた場所だけに、土地勘のない外国人が自力でたどり着くのは難しかった。SNSや口コミサイトが普及し、情報を入手しやすくなったことで、徐々に外国人客が増加。周遊ツアーのコースに組み込まれ、首都圏から足を延ばしやすくなったことも追い風となった。
入社17年目の職員滝沢厚氏によると、目立つのはオーストラリアからの観光客だ。日本とは季節が真逆で、長期の夏季休暇で足を運ぶ。「もともとオーストラリアは口コミ文化が強いようで、SNSや口コミサイトで『よかったよ』と広まった」(滝沢氏)。雪深いことそのものがインスタ映えすると好評で、欧米客も含めて白馬や野沢温泉のスキー場と組み合わせて長期滞在するのが定番化。両スキー場が上記ランキングにそろい踏みしたのも、広域観光が進んでいる証といえそうだ。
アジアからの観光客も、着実に増えている。その背景にあるのが、日本列島を縦断する新ゴールデンルートだ。中部・北信越の9県が手を組み、12年に「昇龍道(しょうりゅうどう)プロジェクト」を発足。石川県の能登半島を龍の頭に見立て、名古屋まで縦断するルートを龍の姿になぞらえ昇龍道(ドラゴンルート)と命名し、中華圏に売り込んでいる。その効果もあり、北陸新幹線で北陸方面を観光後、野猿公苑を訪れるルートが切り開かれた。
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