講演での質疑応答やコンサルティング先でのワークショップ、音声SNS「Clubhouse」などで、さまざまな人と話をする前刀禎明氏。その中で気になるのが、受け売りで話す人の多さだという。そして裏にあるのは、人との対話にまで効率を求める傾向だと指摘する。

「最近、みんな効率を求めすぎる。受け売りで話す人が多いのもその表れ」と前刀禎明氏
「最近、みんな効率を求めすぎる。受け売りで話す人が多いのもその表れ」と前刀禎明氏

 誰かと対話することは、それだけで学びの機会。僕はもともと本を読んだり勉強したりといったことがあまり好きではありませんでしたから、今持っている知識や物事と向き合うときの姿勢などは、誰かと会って話をし、さまざまなことを体験してみて得たことがほとんどです。

 だから今でも、講演後の質疑応答や、コンサルティング先でのワークショップ、音声SNS「Clubhouse」なども使って、年齢、職種、肩書問わず、さまざまな人と対話を重ねています。そうするとよく「誰に対しても気さくですね」と言われますが、僕にとって見知らぬ人と話すことは単純にとても楽しいこと。新たな視点や知識を得られるチャンスです。僕と話をする人も、僕と同じように対話を学びの機会にしてほしいなと思っています。

 ただ、そういう場でいろいろな人と話をしていると、最近気になることがあるんです。それはみんな、効率を求めすぎていないか、ということです。

受け売りが多すぎないか

 例えば、Clubhouseでのこと。Clubhouseは一時のブームを過ぎて、今は音声でのやりとりやコミュニティーが性に合う人が利用を続けている印象です。僕は文字のやりとりより人と話すほうが好きだから、いまやClubhouseで話すことも生活の一部になっています。

 ここで多いのが、受け売りで話をする人です。「これって結局、○○なんですよ。テレビで△△さんも言ってましたけど」という調子。既に世の中に発信されたものをなぜか、もう一度なぞって言う。「それってこういうこと?」「こういうときはどう考える?」などと、こちらから質問をすると、まともな答えは返ってきません。その人が自ら考えたことではないからです。

 友人同士の雑談ならそれでも構わないと思いますが、オーディエンスに有益な何かをもたらすようなことをうたった場で、受け売りの言葉を披露してしまうのは、言う側も聞く側もなんだか“もったいない”ですよね。

 このような受け売り発信が増える裏には、なかなか根深い問題があると思います。単純に、自分がどこかで見聞きして価値があると思ったものを他の人に共有しようとしただけ、というケースもあるでしょうが、そうではないケースもきっと多い。自分の発言に対して、「なるほど」「その着眼点いいですね」「すごい」といったポジティブな反応を手っ取り早く、できるだけ多く欲しいという気持ちが、人に受け売りトークをさせるんじゃないかと思うんです。

 要は、TwitterやInstagramの「いいね!」の多寡で一喜一憂する感覚から自由になれていないわけです。「いいね!」をつけたりコメントをしたりする機能がないSNSで、それでも自分が他者に認められたという実感を分かりやすい形で得たい人が、どこかで聞いた誰かの言動を流用してでもその欲求を満たしにかかっている。僕にはそんなふうに見えます。

 受け売りでも、内容が面白ければ、初めて聞いた人は感心したようなリアクションを取るので紹介した人は満足できるでしょうし、その話を知らなかった人がそれを機に知れたのなら、それなりの意味と価値はあるでしょう。でも、やっぱり“もったいない”と思います。せっかく他でもない自分が発信するなら、自分にしか言えないことを言うほうがいいし、聞く人だって、その人からしか聞けないことを聞くほうがうれしい。既に名を成した誰かが放ったすてきな言葉は、受け売りしてもらわなくても触れる機会が多々あるし、元の発信者の口から聞くほうが当然響きます。

 自分にしか言えないことを発信する、なんていうとハードルが高そうですが、そう難しく考える必要はありません。マスメディアやSNSで接した誰かの言動をいいなと思ったら、その言動について考え、行動を起こしてみる。実験する。ただ見聞きするのでなく、行動が伴えば、自分にしかできない体験になります。その体験談付きで話せば、そこには必ずオリジナルの言葉がある。そして、自分の言葉が持てるような体験をしたことは、その人を一歩、前へ進めてくれます。

意識して言葉の呪縛から自由になる

 受け売りが根深い問題だとしたのは、行き過ぎた承認欲求の表れだと考えられるからです。ただ、僕はここまでこの「承認欲求」という便利な言葉をあえて避けていました。この言葉の流行にもまた怖さを感じているからです。

 SNSが広く普及して、さまざまな感情や欲求、精神状態に名前が付くようになりました。「承認欲求」「自己肯定感」「ウェルビーイング」などなど。名前が付くと、話題として取り上げるにも効率がいい。同じように苦しんでいる人がいると知って安心した人もいたでしょうし、その悩みの存在が広く知られることで生まれた気遣いや親切もあったかもしれません。言葉が広がってよかった面は確実にある。

 一方で、名前を付けたことで、今まで意識していなかった新たな悩みを生み出してしまうこともあります。承認欲求や自己肯定感を特に意識せず、日々の仕事や人間関係をつつがなくやってこられた人まで、「もっと認められたい」「自己肯定感を高めなくては」という心境になったり、ネットにあふれている自己診断ツールなどを試して自分はダメだと思い込んでしまったり。何かにもたれかかることもなく快適に歩いていた人が、新しくはやった考え方や指標にすがりついてバランスを崩してしまうようなことが起きています。

悩みに関係した言葉が広まると、自分もそれに当てはまるかもと思ってしまうこともある
悩みに関係した言葉が広まると、自分もそれに当てはまるかもと思ってしまうこともある

 それに、感情や精神状態を表す言葉が細分化されて使われるようになったことで、そこからこぼれる、言語化しきれない気持ちや感覚までもが、ありのままにしておかれなくなったとも思います。このモヤモヤを言い表すならこれだ、と今ある言葉のどれかに無意識にでも当てはめてしまう。感情が画一化されていくのです。

 自分の感覚を表現するために、一般化した言葉の中から、ぴったりじゃないけど似ている言葉を選ぶぐらいなら、僕はまるで違うところから引っ張ってきてもいいのにと思います。例えば「あの人の見方は青みがかっていたと思うんだよ。僕はオレンジの方向で考えたかったから、少し違うかな」なんてね。まず頭のおかしな人だと思われるでしょうが(笑)、この伝え方にもいいところはあります。

 一つは言語化できない感覚をそのまま大事にできる点。それから、解釈の幅がある点です。正確に伝えたつもりなのにひずんだ解釈をされて傷つくといったことが起こりえない。その代わり、誤解は生じやすいでしょうね。でも、ビジネス上の決断など互いの考えをしっかり共有し合うべき場面でなかったら、誤解なんていくらあってもいいじゃないですか。正解には多くの人がたどり着くけど、誤解はその人固有のものかもしれない。実は、その人らしさが出るところです。

 先の例に、青やオレンジといった色を持ちだしたのは、何もかもを優劣や正誤でくくってしまう傾向にも危ういものを感じるからです。視聴率の低いドラマは出来の悪いドラマ。「いいね!」が20の意見は間違っていて、「いいね!」が8万の意見は正しい。「自分らしく生きよう」「自分軸を見つけよう」という言い方もはやっていますが、その「軸」としてイメージするのは細い垂直な棒で、それから外れるとダメと捉えるような狭く貧しいものだったりする。不自由な考え方だと思います。

 軸は縦横無尽に何本も走っていて、その何次元だかの空間に、自分が経験したことや考えたことをぽつぽつ置いていく。そんなふうに配置すると、意外なもの同士が隣り合って結びついたり新しい発見があったりするのですが。

あえて非効率にやってみる

 受け売りの発信はもったいない、言葉に依存するのは怖い、垂直な軸だけではつまらない、とダメ出しが続いてしまいました。逆に、僕が人と話していて、この人はこの対話の機会をうまく捉えているなと感じるのは、容易に納得しない人です。

 人の話を素直に聞きながらも、聞いてすぐ「なるほど」と言わずに質問や自分の意見が出てくる人。その結果、相手からもさらなる言葉が引き出されます。受け身で聞いてただ相づちを打った話はすぐ忘れると思いますが、自分の引っかかりを見逃さずに口にする勇気を出せば、そのとき話したことや考えたことはその人の養分になります。

 無理に質問する必要はありませんが「どうして?」「自分なら」。この2つの切り口だけでも意識しておくと、質問してみたいと思う機会が自然と増えると思いますよ。

 こういう人は、1つの対話やその内容との向き合い方が、ある意味“非効率”です。受け売りで発信する人がメディアやSNSから格好いいフレーズやカリスマの新習慣を3つ、4つ仕入れている間に、何か1つ、ものになるかどうかというぐらいのペース。それでも、時間も頭も勇気も使っている分、その思考、経験は長くその人を助けてくれるはずです。

 何でも効率的にやりたい。最短距離で正解にたどり着きたい。その気持ちも分かります。最近はコストパフォーマンスならぬタイムパフォーマンスを示すタイパなんて言葉も出てきました。映画を倍速で視聴したり、本のあらすじまとめをい拾い読みしたり。自分にとって注力したい領域じゃなければ、“タイパ”重視も理にかなっています。しかし、自分の本業、本領だと思うところでは、時に回り道をするのも大事なことです。どんなにムダを減らし、どんなに生産性を高めても、それだけでは新しい価値を創造することはできません。賢くやるところと、あえて非効率にやるところのメリハリをつけたいですね。僕なら、人との対話はもっぱら非効率にやりたいところです。

(構成/赤坂麻実)

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 ソニー、ディズニー、AOLなど、国内外の名だたる企業で経営の最前線に立ち、アップル米国本社副社長時代には「iPod mini」を大ヒットさせた前刀禎明氏。「日本企業は製品を売るのが下手」と言い切る前刀氏が、自らの経験と、そこから得たマーケティングの本質、アイデアの源、仕事との向き合い方を語り尽くしました。マーケティング担当者はもちろんのこと、もっと仕事を充実させたいと思っているすべてのビジネスパーソンにお読みいただきたい1冊です。
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