転職や独立、副業を含む働き方の多様化が進み、コロナ禍を機にリモートワークも広がった。メディアなどでは数年前からキーワードとして「個の時代」が挙がる。一層の多様化が進む中、マーケターは消費者をどう捉えるべきか。前刀禎明氏は「個の時代にも画一化は免れない」と指摘する。

アップル米国本社副社長などを務めた前刀禎明氏
アップル米国本社副社長などを務めた前刀禎明氏

 コロナ禍で多くの企業が在宅ワークを取り入れ、十人十色の環境で働くことが可能になりました。以前と同じように職場へ通って働く人もいますが、それが圧倒的な主流だった時代は終わりました。

 不謹慎なようですが、面白いことになったと思います。長らく「これからは個性の時代」「自分らしい働き方」などといわれながら、実態は程遠いという時期が続きました。それがこの数カ月で状況は一変。働き方一つとっても、自分で判断する場面が増えています。

 前回、これからの製品はブランドや人気より実利が求められる、消費者は今の自分にとって具体的な“いいこと”がある製品が欲しいという話をしました(関連記事「既定路線の製品はもう売れない 目的発のリアルな企画に回帰せよ」)。消費行動にも「自分らしさ」が一層表れるようになってくる。潜在的には望まれながら実現することのなかった「個の時代」が、コロナ禍を機についに到来した。そんな感慨があります。

横並びの時代は終了

 私は最近もオンラインで講演や講義の機会を持っています。いつも質疑応答の時間を可能な限り取るのですが、ある講義の終わりに、季節家電の製品企画を担当しているという人からこんな質問を受けました。「季節家電は納期が厳しい中で差異化を図って企画するのが難しい。どうしたらいいでしょうか」というものです。

 この質問からも、これまでがいかに「自分らしさ」や「個」という概念からかけ離れていたかが分かります。商品やサービスは本来、課題や目的から発想して企画すべきもの。それなのに、なぜ毎年モデルチェンジしなければいけないのでしょう。そして、季節家電という分類を作って、季節ごとに家電を売るスタイルは、今の気候や人々のライフスタイルに本当に適しているでしょうか。

 記録的な大雨が増えたり11月に台風が接近したりしている昨今です。気候が変わればモノを買うタイミング、売るタイミングも変わって当然。今は在宅ワークが増えたことも考え合わせれば、一日の大半を自宅で自分の好みに過ごせるようになっています。例えば11月でも扇風機を使う人がいてもおかしくない。メーカーみんなが同じタイミングで同じような新製品を並べる必要はないし、そうでなければ売れないという強迫観念からは解放されるべきだと思います。