リアルでニッチなニーズに応える

 では、マーケターはどうすべきなのか。この連載でも繰り返していることですが、プロダクトの本質・目的に立ち返って考えることが大切です。何をするためのものか。どんな望みをかなえ、どんな困りごとを解消するのか。実際に使ったり家に置いたりする場合に、どんな特徴や機能を持たせると利便性が高まるのか。そういったことを突き詰める。

 「売れそうな○○ってどんなものだろう?」「何がウケそうかな?」と最大公約数的なニーズを探るのではなく、本当の意味でのプロダクトアウトに舵(かじ)を切るべきだと思います。“他でもない私にとって心地がいい”プロダクトが求められる分、あらゆる市場でニーズは多様化しますから、それを可能な限りカバーしようとすれば、総花的な企画になって製品の特徴がぼやけるのは当然です。みんなのニーズをある程度まで満たした製品は、みんなが一番欲しい製品にはなり得ません。それより、もっとリアルでニッチなニーズを捉えたいですね。

 分かりやすく言えば、“とんがった”部分がある製品をつくる。ただ、これは差異化のための差異化をしろという話ではありません。先述の通り、何をする製品か、この製品でユーザーのどんな悩みを解消したいか、どんな望みをかなえたいか、実利を追っていけば、むやみに多機能化することもなく、おのずと明確な特徴を持った製品になるはずです。つくり手にはある種の割り切りが求められますが、「この商品はこういうもの」という固定観念の壁を越えてもらいたいところです。

 余談ですが、「製品のクオリティー」といったときに、ユニークな機能や高い性能のことだと決めつけてしまうのもまた固定観念です。デザイン性の高いものに囲まれて生活することで充実感を得られる人もいれば、手触りや使ったときに立つ音といった質感が満足度を大きく左右する場面もあります。これを追求すれば正解というものはありません。ただ、誰のどんな欲求を満たす製品にするのか、一貫した思想を持つことが大切です。

目的から発想して企画する

 新規事業を企画する人、何をつくるのかというところから選択できる立場の人には、固定観念からの脱却がより一層求められます。例えば、バスタブを掃除することを想像してみてください。昔はブラシやスポンジでこするのが当たり前でした。今では、多くのバスタブはあまり強くこすると表面が傷付いて、かえって不衛生になりかねないということが分かり、こすらずに汚れを化学的に処理する洗剤などがたくさん販売されています。バスタブを清潔にするという目的に対して、手段が変わって(増えて)きたわけです。

 社会課題や個人的な困りごとにも、多くの場合、複数の解決法があります。例えば、私は西日の強い部屋を引き払って新居に引っ越しましたが、「日中の部屋の暑さをなんとかしたい」という目的を満たす手段なら他にもありました。窓に高性能の断熱フィルムを貼る、遮熱性の高いタイプのカーテンを付ける、エアコンを更新するといったことですね。引っ越しには他の方法よりお金と手間暇がかかる、フィルムやカーテンは部屋が暗くなる、エアコンでは日差しの強さ自体は解消できないなど、それぞれ問題はありますが、いずれも一長一短の選択肢です。

 何が言いたいかというと、「この用途にはこの製品」という思い込みから自由になって発想すべきだということです。企業の中に既存製品や既存技術があると陥りがちな発想です。そうではなく、「こういう問題があるから、自社にあるこの技術で応えてはどうだろう」というように、課題や目的から発想して企画する本来の思考に立ち返れば、今のニーズに合わせた新しいプロダクトが生み出せるのではないでしょうか。

 以前にも言いましたが、感染症の世界的流行という未曽有の災害で、人々のマインドセットは、常識外れのものを受け入れやすくなっています。本当の意味で新しい製品や、新しい事業に挑戦するには、いい時機が巡ってきたと僕は考えています。

(構成/赤坂麻実)