新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化している。国や自治体から外出自粛、営業自粛の要請が続き、ダメージを受けている個人、企業も少なくない。テレワークの推奨で働き方も変わりつつある。従来の常識が揺らぐ今、何を考え、何をすべきか。前刀禎明氏と考える。

「こういう時代だからこそ無理やりにでもポジティブに考えたほうがいい」と前刀禎明氏
「こういう時代だからこそ無理やりにでもポジティブに考えたほうがいい」と前刀禎明氏

 新型コロナウイルスの猛威が続いています。健康や経済、さまざまな面で実害を被っている人、そして被害は軽微でも先の見えない状況に不安や鬱屈を抱えている人は多いでしょう。これまでのビジネスや働き方の常識が通用しなくなることも考えられます。

 こうした中で、我々はどうあるべきか。僕が思うのは、粛々と感染予防に努めつつも起きたことはそれと受け止め、変わりゆく状況で自分がすべきことを考えることです。そのほうが建設的だし、前向きになれる。こう言うと不謹慎に聞こえるかもしれませんが、僕はコロナ禍を憂える一方で、それによって引き起こされた“乱世”を楽しみたいと思っています。

がらりと変わるこれまでの常識

 いろんなことが一気に変わって、当たり前とされていたことが当たり前ではなくなる。こうした乱世にこそ、「きっと何かのチャンスだ」と捉え、自分や自分のビジネスを成長させることを考えたいと思います。

 実際、今回のことで成長や発展が見られた分野もあります。マスクがこんなにも全国民から、全世界から求められる商品になるとは、3カ月前には誰も予想できなかったはずです。スーパーやドラッグストア、ホームセンターの売り上げは全体的に増加しています。“巣ごもり消費”が伸びて、本やテーブルゲームも価値が見直されているといいます。室内で使える健康・スポーツ器具もよく売れているのだとか。

 このところ調子が良くなかった電機業界では、工場を転用して今社会が必要とする商品を製造する取り組みが生まれました。ご存じの通り、シャープは日本政府の「マスク生産設備導入支援事業費補助金」を受け、液晶ディスプレーの生産設備を活用してマスクの生産を始めました。リコーは、神奈川・厚木市にある技術開発拠点でフェースシールド(防護マスク)を生産し、無償提供を始めています。

 全社規模でテレワークを導入した会社もあります。ソニーは2万人、日立製作所は5万人超の社員が原則在宅勤務になりました。大規模かつ素早い行動は、経営陣の判断スピードや会社の体質の良さを印象付け、やがては優秀な人材を獲得できる可能性も高まるでしょう。

 こうした企業以外でも、テレワークを実践している人は増えています。政府がどんなに「働き方改革」を掲げて旗振りをしてもなかなか浸透しなかったものが、この短期間に多くの企業で取り入れられました。結果的に、通勤に使う時間や体力を本業に回せるビジネスパーソンは増えたはずです。ビデオ会議などが増え、企業のシステム担当はITリテラシーの低い社員のフォローに苦労しているという話も聞きますが、裏を返せば、その会社のITリテラシーは急激に底上げされているともいえます。

既成概念が崩れた環境は挑戦に適す

 自らに意識を向ければ、内面の変化も見えてきます。例えば、これまで知らなかったことを新たに知る機会が増えたでしょう。感染症予防という、これまで意識したことのない観点で世の中を見ることになったからです。先日、あるサイトに飛行機の換気システムの仕組みが掲載され、その換気能力が話題になっていました。3カ月前にはほとんどの人にとって関心事ではなかったはずです。

 価値観も変化しつつあります。少なくとも、「働く」とは「出社すること」だと思い込んでいた人は考えが改まったはず。会議が減った企業、チームも多いのでは? 会議に限らず、業務上の取捨選択がしやすくなったのは間違いありません。不要なものを省いていく中で、本当に必要なものが際立って、物事のコントラストがよりくっきりしてきますよね。

新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う外出自粛で街は人の往来が著しく減った(写真/Shutterstock)
新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う外出自粛で街は人の往来が著しく減った(写真/Shutterstock)

 こういうときは、挑戦のハードルも下がります。どうしようもない事態に見えるときは、誰もが“正しい”と思う手を見つけにくいとき。だからこそ、あらゆることを試しやすいんです。

 平和なときはちょっとの失敗がその人や会社にとって事件になるかもしれない。無難な策を選びがちです。でも、社会全体が激しく揺れ動いているときならば、誰かがどこかで何かを試して結果が芳しくなくても、どうということはありません。駄目なら駄目で、さっと引けばいいだけです。

 今は発想を転換する好機です。これまではできないと思っていたこと、当たり前だと思っていたことを考え直す。環境や前提条件が変わり、自分自身も変わっているなら、無理だと思ったことが実現する可能性はあります。

激変する世界、至るところにテーマが転がっている

 例えば僕が次にやってみたいと考えたのは、eラーニングの新しいプラットフォーム作りです。全国的な一斉休校の中でeラーニングが存在感を増しています。子供たちのためにプログラムを無償提供している企業も多く、頭が下がります。ただ、僕は科目別に系統立てて学ぶeラーニング以外に、より複合的に学べるプラットフォームがあると面白いんじゃないかと思いました。

 現実に何か問題に直面したとき、数学の公式一つで解決できるようなことはめったにありません。さまざまな知識やスキルを組み合わせて解決を図るはずです。そういったリアルなものの考え方が身に着くような学習プラットフォームがつくれたらと“妄想”しています。これはジャストアイデアのレベル。今すぐ形になるわけではありません。それでもかまわない。人にもよるでしょうが、僕は頭の中を散らかった状態にしておいたほうが新しいアイデアが生まれやすいので、これがいつか別のビジネスに結び付くかもしれないと思っています。

 今はテレビをつけてもネットを見ても、「ステイホーム」の呼びかけと、それでも思うように減らない人の動きを嘆くものばかりです。僕も街中で「不要不急」の外出をしている人を見かければ、残念なことだと感じます。一方で、どうして同じことばかり話題にするのだろうと疑問に思ったりもします。情報は重要ですし、それに接すれば感想を持つのは自然なことかもしれません。ですが、新型コロナウイルス(に関する他人の言動)の“評論家”になることは避けたい。それよりも、ビジネスを含め、自分のことを考え直す。それが可能な状況にある人は、その幸運に感謝して前を向くほうが明るい未来が迎えられそうです。

 皆さんも、この機会に自分が携わっている進行中の企画を、新しい前提、新しい観点で見直してみるのはどうでしょう。考えることは自宅でも一人でも可能です。思索する力を高めましょう。そして、必要に迫られて外出する際には、ぜひ身の回りの変化に目を向けてみてください。コロナ禍そのものは決して歓迎できませんが、せめて訪れた非日常の世界を観察の対象にしてやりましょう。

(構成/赤坂麻実)