例えばレシピなしで料理を作ってみよう

 僕が今、子供向けの取り組みとして関わっているのが、Hacksii(東京・品川)が運営する料理教室「ハクシノレシピ」。僕はアドバイザーを務めています。これは自宅で行うパーソナルレッスン形式の教室で、子供が自分で冷蔵庫から食材を選んでメニューを決め、料理をして発表するというもの。メニューもレシピもないところから作る過程を先生がサポートします。

「ハクシノレシピ」のウェブサイト
「ハクシノレシピ」のウェブサイト

 これは、「Free Yourself」「Create Yourself」というプロセスにとても効果的だと思います。子供時代に想像力を使って遊んだ人は、大人になってから創造力を発揮できるという研究結果があるんです。英ケンブリッジ大学では教育学部に「PEDAL(Play in Education Development and Learning)」という機関を設置し、ブロック玩具の「LEGO」などを使って研究を進めているといいます。

 ハクシノレシピで作るメニューを決めるとき、「お味噌汁も作ったら?」と先生が提案すると、多くの場合、子供からは「何を入れたらいいの?」「どうやって作るの?」と質問が返ってきます。正解があると信じているし、間違えたくないからです。この考え方を打ち破って、そこにあるものを生かす、自分の発想で動くという体験をしてもらうのが、この教室の目的です。

 煮物を作ろうとして、鍋にところてんを入れてしまう子供もいます。ところてんは溶けてしまいますが、先生はそれを事前には教えません。止めることもしません。ところてんはゆでると溶ける、せっかくの食感が味わえないということを実地で知れば、それもまた収穫だからです。ゼロから考えて、やってみて、学ぶことが重要だから、失敗しても構わない。むしろ、失敗は貴重な体験です。

 わざわざそんなサービスを利用しなくても、家庭でできそうと思う人もいるでしょう。でも、意外と親にはできないことなんです。親はどうしてもわが子に正解を教えてあげたくなるものです。自分の子供には失敗させたくないし、子供が落ち込んだらかわいそうだからと、つい「これはこうするものよ」と言ってしまう。外部のサービスに機会を求めるのが有効なこともあります。

「何もしない」森林浴が効果

 では、子供時代をやり直せない、大人はどうすればいいのか。意識的に「Free Yourself」、自己を解放する機会から作らなければなりません。

 僕が勧めたい方法の1つが森林浴です。森の中に身を置いて、何もしない。ただ五感で刺激を受け取るだけ。土を足で踏みしめる。肌に風を感じる。葉が揺れる音を聴く。草木の匂いを嗅ぐ。空気がおいしいと実感する。それだけ。少し前に海外企業などを中心に「マインドフルネス」がはやりましたが、それに近いでしょう。

 でも、企業から社員研修の相談を受けて森林浴を提案すると、「森へ行って、そこでどんなアクティビティーを?」と聞かれることがよくあります。「何もしない」ことに意味があるのに、どうも怠けているように思えるのか、落ち着かないのか、あれやこれやカリキュラムを用意しようとしてしまうんですね。「何かしなければいけない」という固定観念から自由になるためにも、森林浴はいいと思うわけです。

森林浴は「何もしない」ことが刺激になる(写真/Shutterstock)
森林浴は「何もしない」ことが刺激になる(写真/Shutterstock)

 実際に研修に取り入れたある企業では、横になって木々や空を見上げた若手プログラマーが「お~、3D空間みたいですね」と言ったそうです。「そりゃそうだろう」と思いますが、その人にとって実際の森は極端になじみの薄い世界。だから自分にとって身近な仮想の3D空間になぞらえたのでしょう。コンピューター上に構築された3D空間を見て「お~、本物の森みたい」と感心することがありますが、その逆のことがこの人には起きているんですね。いつも見ている世界を、違う角度から体験できたのではと思います。

 こうした体験をもっと多くの人にしてもらうために、僕は今、森林を生かした人材育成などに取り組む「森と未来」という団体と企画を練っているところです。ただ、これもあくまでも一例。マニュアルも正解もないんです。逆に、ロールモデルや決まったやり方に頼ると、あれもやらなきゃ、次はこれをしなくちゃ、と苦しくなっていきかねません。それこそ失敗を恐れず、いろいろ試してみるのがいいんです。

 大人になると、失敗が怖くなるのは分かります。自分が慣れ親しんだ環境によって、物の見方や考え方が方向づけられてしまうのも当然です。だからこそ、時には意識して別の刺激を受け、解放する機会を設けなければならない。本来、人は経験を積むほど、いろんな可能性を知ることができます。広がる可能性を楽しみましょう。

(構成/赤坂麻実)