社会人もベテランや中堅になると、「スペシャリスト」と呼ばれることが増えてくる。周囲から信頼を寄せられるのはいいことだが、マーケターなら、スペシャリスト扱いに警戒心を持ったほうがいいと前刀禎明氏は忠告する。

「スペシャリストと言われることには注意も必要」と前刀禎明氏
「スペシャリストと言われることには注意も必要」と前刀禎明氏

アイデアが生まれやすい意識の持ち方を考える

 新しい製品やサービス、あるいは顧客と自分たちの関係構築について、新しいアイデアを生み出すのは難しいことです。だからこそ、さまざまなビジネス系メディアでは、アイデアを生むための方法論が語られています。人気を集めがちなのが、「3つのステップ」「4つのメソッド」など、具体的に取るべき行動を箇条書きにして指南する記事。「これさえやれば大丈夫」と安心できるのが人気の理由でしょう。

 しかし、アイデアを生む力、言い換えれば創造性をいかに養い、発揮するかという話をするときに、「これさえやれば大丈夫」というのもおかしな話です。アイデアは自由なもの。だからこそ、それを生み出す方法は人それぞれのはずです。「3つのステップ」や「4つのメソッド」で型にはめてしまっては、むしろ思考停止に陥ります。

 ではどうすればいいのか。これは、昔から多くの人に共通する悩みだったのでしょう。古今東西、多くの賢人がカギとなるようなことを述べています。言い方こそさまざまですが、大切なのは、意識の持ち方を変えることです。

 僕が大学生の頃に感銘を受けたのは、石川島播磨重工業(現IHI)や東芝などの社長を務めた昭和を代表する実業家、土光敏夫さんの著書にあった「日に新たに、日々に新たなり」という言葉です。昨日よりもきょう、きょうよりもあすと自分自身を新しくしていく心がけを説いた言葉だと思います。

 一方、スティーブ・ジョブズは「If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?(きょうが人生最後の日だとしても、きょうやる予定のことを私はやるだろうか)」と言いました。「Follow your heart.(自分の心に従え)」とも言っています。

知識や経験に寄りかかってはいけない

 これらの言葉、要は自分をリセットすることの大切さを訴えているのです。きょうまでに積み上げた知識や経験、獲得した地位、慣れ親しんだ人間関係、仕事にいつの間にか存在する既定路線。そうしたものにどっぷり浸かっていると、自分を昨日までの自分より良くすることはできないし、新しいものを生み出すこともできません。

 「常に初心者たれ」という言い方が分かりやすいでしょうか。知識や経験は蓄えても、過去に培ったそれらに満足しないこと。自分はもう十分に知ったと思わないことが大切です。

 あるいは、「既知」と「未知」の境界に常に立つべきとも言えます。年齢を重ねると、多くの仕事は、過去に培った知識や人脈を使ってこなせるようになるので、新しいものを求める気持ちが薄らいでいきます。「既知」の世界でお茶をにごす。これでは新しいアイデアが生み出せなくなるのも当然です。

 その意味で、「スペシャリスト」と呼ばれたら要注意。周りの人たちから、その分野を十分に知り尽くした人のように扱われるようになると、発言がうのみにされてよく吟味されなくなったり、他の人の意見を聞く機会を逸したりします。自らも慢心すれば、自分と異なる意見に出くわしたときに自分の意見が否定された、自分の人格が否定されたと受け取って、相手を言い負かそうとするようなケースも。組織にとっても本人にとっても不幸な事態を招きかねません。

大切なのは“学び続ける知性”

 初心者でいるのは、勇気が要ります。分からないことを分からないと認めるのは恥ずかしいし怖い。自分が今まで積み重ねてきたものを取り払うと、自分の価値がなくなったように感じる人もいるでしょう。でも、本当は積み上げたつもりのものだって、会社にただ勤める中で得ただけのことが多く、知識や経験を本当に自分の価値に昇華させている人は少ないのです。会社の看板や肩書が立派になっても自分に満足しないで、勇気を持ってリセットとリスタートをくり返す。リセットで失われるものがあるとしても、それはあなたが思うほど重要なものではありません。

 それよりも、自分を守り過ぎる気持ちが創造性の妨げになることのほうが問題です。保身のため、直感よりも理論や常識、データを過剰に重視して、新たなチャレンジをするチャンスを失ったり、「これって何か変だな」と違和感を覚えても、なぜ違和感を感じるのか、それがビジネスにどんな影響をもたらすのかを深く考えず、違和感自体をなかったことにしてしまったり。実はその違和感を持ったところに、新しいサービスや製品の種があるかもしれないのに、見逃してしまうというのはよくあることなのです。

 僕は、企業から人材育成の相談を受けたり、研修プログラムの監修を頼まれたりしたとき、「ラーニング・インテリジェンス」を主眼において考えます。「ラーニング・インテリジェンス」は造語です。言い方にはこだわりませんが、要は“学び続ける知性”を身につけようと言いたいわけです。

 僕が大好きなアニメ「ドラゴンボール」シリーズの主人公、孫悟空はいつまでも強くなりたがります。まさに飽くなき探究心。「スーパーサイヤ人になれたからもういいや」とはなりません。過去に築いたものに頓着しないあのメンタルを、ビジネスの土俵に持ち込むのが僕のもくろみです。知識が悪いと言いたいのではありません。ただ、知識は得た時にはもう過去のものになるのですから、そこに頼りきりでは新しいものは生まれないということを理解しておかなければなりません。

 今回は抽象的な話に終始したので、次回は僕が最近携わった子ども向けの知育プログラムや企業のオフサイト研修などを例に、具体的な方法論を考えてみましょう。どうすればラーニング・インテリジェンスを獲得し、磨いていけるかという話です。「○つのトレーニング」的な記事にはしませんよ。

(構成/赤坂麻実)